【意義】
システム開発業務委託契約書(一括請負型)は、委託者が受託者に対してシステム開発における要件定義業務から運用テスト業務までを一括して委託する場合に活用される契約書で、小規模なシステム開発又はシステムの概要がある程度決まっている開発で用いられます。
この一括請負型は、大規模なシステム開発で用いられるようにシステム開発基本契約を締結し、個々のフェーズごとに請負又は準委任のいずれかを選択しながら個別契約を締結する多段階契約型とは異なる方法になります。
【位置付け】
システム開発業務委託契約(一括請負型)は、システムの完成を目的とした請負契約と位置付けられ、仕様に合致しないシステムについては、特約がない限り、契約不適合責任として、受託者は、委託者に対し、修補義務等を負うことになります。
【システムの本番稼働時期】
システム開発業務委託契約(一括請負型)は、請負契約と位置付けられる関係でシステムの本番稼働時期を規定することになります。
もし、この本番稼働時期にシステムを稼働させることができないときは、受託者は、委託者に対し、債務不履行による損害賠償責任を負うことになります。
【仕様書の作成】
受託者は、委託者から提示された要件をもとに仕様書(要件定義書、外部設計書及び内部設計書)を作成し、委託者がこれを確認し、仕様書の内容が二転三転することを防止するため、双方がこれに記名押印する形がとられます。
【役割分担】
システムを完成させるには、委託者による要件提示と受託者によるプロジェクトマネジメントの実施がそれぞれ必要であり、委託者又は受託者が自らの役割を怠ったときは、相手方に対して損害賠償責任を負うことが規定されます。
【業務責任者】
システム開発業務委託契約(一括請負型)では、開発の現場に多数の者が関与し、権限があいまいになるおそれがあるため、多段階契約型のシステム開発基本契約と同様に業務責任者の規定が定められ、委託者及び受託者は、それぞれの業務責任者を通じて相手方に対して意思決定、同意等を行うこととされます。
ただし、契約変更、契約解除等に関する事項については、業務責任者は、これらの権限を有しないとする形が一般的です。
【委託料】
システム開発業務委託契約(一括請負型)における委託料については、次のような形で開発フェーズに応じて委託料の支払時期を定めることが多いといえます。
ex.
(1)契約締結時 金〇〇〇円(税別)
(2)仕様書確定時 金〇〇〇円(税別)
(3)検収完了時 金〇〇〇円(税別)
【検収】
受託者から納入されたプログラム(=納入物)が仕様書どおりに稼働するか否かを委託者が所定の検査期間内に検査し、検査合格の場合には、納入物の引渡しが完了し、検査不合格の場合には、受託者にその修補を求めることになります。
そして、検査期間内に委託者が検査の結果を受託者に対して通知しないときは、その期間経過後に納入物が検査に合格したものとみなすことが多いといえます(=みなし検収)。
この点、検査期間の設定については、システム開発業務委託契約(一括請負型)の場合、小規模な開発が中心となるため、比較的短めの検査期間が設定されることが多いと考えられますが、実際にシステムを動作させ、その期間内に検査を実施できるのかを委託者側としては、よく検討しておく必要があります。
委託者としては、検査期間内に検査の結果を受託者へ通知しないとみなし検収により納入物に欠陥等があっても納入物が検査に合格したと取扱われるリスクがあります。
【権利侵害の責任】
委託者が納入物に関して第三者から権利侵害の申立てを受けた場合において、次の条件を全て満たすときは、受託者は、委託者に対し、敗訴判決の確定又は交渉における和解等の確定的な解決により委託者が支払うべきとされた損害賠償額等を支払う形が一般的です。
(1)委託者が納入物に関して第三者から権利侵害の申立てを受けた場合において、一定期間内にその旨を受託者に対して通知していること。
(2)委託者が受託者に対して第三者との交渉又は訴訟の遂行に関して実質的な参加の機会及び全ての決定権限を与え、並びに必要な援助を行っていること。
ただし、次のいずれかに該当するときは、受託者は、上記の責任を負わないとされることがあります。
(1)委託者が納入物を変更し、又は受託者が指定した稼働環境以外の環境でこれを使用したとき。
(2)第三者が開発したシステム又はモジュールとともに委託者が成果物を使用したとき。