出版契約書の意義


【意義】

出版契約書は、著作物の複製権又は公衆送信権を有する者(=著作権法上これらの者を複製権等保有者といい、作家等が主に該当します。)がその著作物を文書又は図画として出版することを引き受ける者に対して出版権を設定する場合に用いられます。

 

出版契約書において、複製権等保有者から出版権の設定を受けた出版権者(主に出版事業者が該当します。)は、次に定める権利を専有する旨が規定され、複製権等保有者は、出版権の範囲で著作物を自ら利用することができず、第三者へ利用許諾することができなくなります。

 

(1)著作物を紙媒体出版物として複製し、頒布する権利

(2)著作物をDVD-ROMその他の電子媒体に記録したパッケージ型電子出版物として複製し、頒布する権利

(3)著作物を電子出版物として複製し、インターネット等を利用して公衆送信する権利

 

 


【出版権の地理的範囲】

著作権法上、出版権を設定する場合、原則として、その範囲を自由に契約で取り決めることができるとされていることから、出版契約書において、出版権を行使できるを定めることが一般的です。

 

 


【類似著作物の出版禁止】

対象となる著作物と明らかに類似する内容又は同一題号の著作物が出版されると出版権者が害されることになるため、出版契約書では、契約の有効期間中において、複製権等保有者が対象となる著作物と明らかに類似する内容又は同一題号の著作物を自ら又は第三者を通じて出版してはならないことが規定されることがあります。

 

 


【出版義務】

著作権法上、出版権者は、特約がない限り、複製権等保有者から原稿等の引渡しを受けた時から6か月以内に著作物を出版しなければならないとされているため、これとは異なる取扱いを希望する場合には、出版契約書に出版物の発行日を定めることがあります。

 

 


【出版しないことになった場合の解除権】

複製権等保有者から引渡しを受けた原稿等の内容が出版に適さないと出版権者が判断したときは、出版権者は、出版契約を解除できるとすることがあります。

 

これは、原稿等が出版に適さない場合にまで出版権者に出版を義務付けるのは妥当ではなく、また、出版権者が出版契約を解除すれば、複製権等保有者は、別の第三者に対し、出版権を設定できるためです。

 

 


【価格、製作部数等の決定権】

出版物の価格、製作部数等の決定権が出版権者にあることが出版契約書に規定されることがあります。

 

 


【権利処理の委託】

紙媒体出版物の複製(その複製物の譲渡及び公衆送信並びに電子的利用を含む。)又は貸与により、著作物が利用される場合、複製権等保有者の委託を受けて出版権者がこれらの権利処理を行う旨が出版契約書に取り決められることがあります。

 

その上で著作権等管理事業法に基づく登録管理団体へ出版権者がその権利処理を委託できる旨が併せて規定されることがあります。

 

 


【著作物の二次利用】

複製権等保有者の著作物が演劇、映画等に二次的利用される場合、出版権者が問い合わせ窓口となる旨が出版契約書に取り決められることがあります。

 

 


【複製権等保有者によるブログ等への利用】

出版権者は、著作物を紙媒体出版物として複製し、頒布する権利等を専有するため、複製権等保有者が自己のブログにおいて著作物を掲載することができなくなるおそれがあります。

 

そこで出版契約書においては、たとえ出版権者が著作物を紙媒体出版物として複製し、頒布する権利等を専有しているとしても、出版権者による事前の同意があれば、複製権等保有者がブログに著作物を掲載することができる旨の規定が定められます。

 

 


【著作物利用料】

出版契約書における著作物利用料の定め方のとしては、例えば、出版権者が著作物を紙媒体出版物として複製し、頒布する場合、「(製作又は実売)部数×定価×〇パーセント(印税率)」といった形で定められます。

 

部数について、実売部数を採用する場合、保証部数を設定し、実売部数が保証部数に達しないときであっても、保証部数相当分の著作物利用料が複製権等保有者に支払われるようにすることがあります。

 

なお、出版権者が著作物を贈呈、宣伝、販売促進等の目的で紙媒体出版物として複製し、頒布する場合等には、著作物利用料の支払いが免除される旨が出版契約書に規定されることがあります。

 

 


【版面データの利用】

出版権者は、著作物を紙媒体出版物として複製し、頒布する場合、自らの費用負担で版面データを作成して

おり、これを複製権等保有者が自由に利用できるとすると「ただ乗り」となり、妥当ではないため、出版契約書において、複製権等保有者が版面データを利用するには、出版権者の事前の同意が必要である旨が定められることが多いといえます。

 

 


【著作者人格権の尊重】

製権等保有者である著作者は、同一性保持権を有しているため、出版権者が著作物の内容、表現等に変更を加えるときは、出版権者は、あらかじめ複製権等保有者である著作者の承諾を得なければならないことが確認的に出版契約書に規定されることがあります。

 

 


【贈呈】

初版又は第2刷以降の出版に際し出版権者が複製権等保有者に対して一定部数の紙媒体出版物を贈呈する場合があります。

 

 


【増刷の通知義務】

著作権法上、紙媒体出版物又パッケージ型電子出版物の増刷を行う場合には、出版権者は、その都度、著作者に対し、その旨を通知しなければならないとされているため、その旨を出版契約書に規定することがあります。

 

 


【全集、著作集等への収録の同意】

契約の有効期間中に複製権等保有者が著作物を自らの全集、著作集等に収録して出版するときは、複製権等保有者は、あらかじめ出版権者の同意を得なければならないとすることがあります。

 

 


【出版権の設定登録】

複製権等保有者と出版権者の合意があれば、出版権を設定できますが、出版権者が第三者に出版権を対抗するには、出版権の設定登録が必要であるため、出版権の設定登録に双方が協力する旨の規定が出版契約書に定められることがあります。

 

また、実務では、出版権の設定登録に要する費用について、どちらが負担するのかを上記と併せて規定することがあります。

 

 


【出版契約の期間満了後の販売等】

出版契約の期間満了時において出版権者が保有している在庫分について、たとえ、出版契約が期間満了により終了したとしても、著作物利用料の支払いを条件として、出版権者は、引き続きその在庫分を販売できるとすることがあります。

 

また、著作物を電子出版している場合には、出版権者が電子出版物をダウンロードしたユーザーに対して再ダウンロードサービスを提供するため、たとえ出版契約が期間満了により終了しても、出版権者は、引き続き著作物を電子出版物として複製し、インターネット等を利用して公衆送信できるとすることがあります。

 

なお、上記の規定が適用されるのは、あくまでも出版契約が期間満了により終了した場合に限られ、出版権者の債務不履行による解除については、出版権者を保護する必要性はないため、上記の規定の適用対象外とされることが多いといえます。

 

 


【盗作等の著作権侵害に対する対応】

盗作等により出版物の著作権が侵害されたときは、複製権等保有者及び出版権者は、差止請求等の法的措置を通じて、互いに協力してこれに対応する旨が出版契約書に規定されることがあります。

 

 


【契約締結権限がある旨の保証】

出版権を設定できる者は、著作権法上、「著作者」ではなく、「複製権等保有者」であるため、自らが「複製権等保有者」として有効に出版契約を締結できることを出版権者に対して保証することがあります。

 

著作権の譲渡により、「著作者」と「複製権等保有者」とが同一人物ではなく、「著作者」と「複製権等保有者」とが別人であることがあるため、出版権者としては、重要な規定となります。

 

 


【内容についての保証】

出版契約において、対象となる著作物が第三者の著作権、肖像権、プライバシー権、パブリシティ権その他の第三者のいかなる権利をも侵害しないことを複製権等保有者が保証し、万一、その著作物により第三者の権利を侵害する等の問題が生じ、その第三者に損害が生じたときは、権等保有者が自らの責任と費用負担により、その問題に対処しなければならないとすることがあります。

 

 


【複製権等保有者である著作者の個人情報】

出版権者が出版に必要な範囲で複製権等保有者である著作者の個人情報を自ら利用し、又は第三者に開示できる旨の条項が出版契約書に規定されることがあります。

 

ただし、肖像又は経歴については、出版権者が複製権等保有者である著作者からその都度同意を得る形にすることがあります。