合弁契約書の意義


【意義】

合弁契約とは、合弁会社を設立し、又は既存の会社を利用して各当事者が共同出資により合弁事業を営む場合の契約をいいます。

 

合弁事業の目的、出資比率、取締役の選任、重要事項の決定、剰余金の配当、コールオプション、プットオプション、競業避止義務等の規定が定められます。

 

なお、実際の合弁事業では、既存の会社を利用すると偶発債務を抱えているケースがあるため、合弁会社を設立して合弁事業を行う形が多いといえます。

 

 


【定款と合弁契約の違い】

会社の組織運営に関する基本的事項を定めた自主規範である「定款」と株主間の合意を定めた「合弁契約」は、合弁契約においても会社の組織運営に関する事項を規定することになるため、ともに似たような機能を有することになります。

 

ただし、「定款」と「合弁契約」とでは、次の点で相違があるとされます。

 

(1)法的拘束力の範囲

「定款」⇒株主のみならず、会社及び取締役等を法的に拘束する。

「合弁契約」⇒株主のみを法的に拘束する。

 

(2)違反があった場合の意味合い

「定款」⇒会社法上の違反となる。

「合弁契約」⇒契約上の違反となる。

 

 


【合弁事業の目的】

次のいずれかの方法で合弁事業の目的を合弁契約に規定します。

 

(1)定款に記載する合弁会社の目的と同内容のもの

(2)定款に記載する合弁会社の目的よりも詳細なもの

 

 


【費用負担】

合弁会社を設立するに際し費用となる定款認証手数料その他の費用については、出資比率に応じて負担することが多いといえます。

 

 


【定款の添付】

商号、本店所在地等の合弁会社の詳細については、定款によることとし、その定款を合弁契約書に添付することがあります。

 

 


【出資比率】

各当事者の出資比率については、その比率が50:50の場合、デッドロックに陥りやすくなるため、一方当事者だけで議決権の過半数を超える形での比率(ex.51:49)にすることが多いといえます。

 

その上で、合弁契約の有効期間中、この比率を維持し、増資を行うときは、この比率に応じて各当事者が株式を引き受ける形が多いといえます。

 

なお、会社法における株主の議決権と出資比率との関係は、次のとおりとなります。

 

(1)20パーセント以上

⇒出資比率が20パーセント以上の当事者は、会社法の特別決議及び普通決議において、単独で議案を可決できず、さらには、拒否権を有しない形になります。

 

(2)3分の1超

⇒会社法の特別決議では、「議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成」が必要であることから、出資比率が3分の1超の当事者は、特別決議において拒否権を有することになります。

 

(3)50パーセント

会社法の普通決議では、「議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数以上の賛成」が必要であることから、出資比率が50パーセントの当事者は、普通決議において拒否権を有することになります。

 

(4)50パーセント超

⇒会社法の普通決議では、「議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数以上の賛成」が必要であることから、出資比率が50パーセント超の当事者は、普通決議において単独で議案を可決することができます。

 

(5)3分の2以上

⇒会社法の特別決議では、「議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成」が必要であることから、出資比率が3分の2以上の当事者は、特別決議において単独で議案を可決することができます。

 

 


【出資比率の変動】

各当事者全員の合意により特定の当事者のみが増資を引き受けた場合等、各当事者の出資比率が変動したときは、あらためて各当事者全員で協議の上、合弁契約を変更することがあります。

 

 


【出資方法】

合弁会社への出資方法については、実務上、次の方法があります。

 

(1)各当事者が発起人となり株式会社を設立し、各当事者が出資比率に応じて株式を引き受ける方法

(2)一方当事者のみが発起となり株式会社を設立し、その一方当事者が自ら引き受けた株式の一部を他の当事者に対して出資比率に応じて譲渡する方法

(3)新設分割設立会社又は吸収分割承継会社を合弁会社とした上でその合弁会社から会社分割の対価として株式を取得する方法

(4)一方当事者の完全子会社を合弁会社とし、その一方当事者が自ら保有する株式の一部を他の当事者に対して出資比率に応じて譲渡する方法

(5)一方当事者の完全子会社を合弁会社とし、他の当事者が出資比率に応じて新株を引き受ける方法

 

 


【取締役の選任】

次のいずれかの方法で取締役の選任を行うことを合弁契約に規定することが多いといえます。

 

(1)過半数の議決権を有する当事者が指名した取締役を選任する方法

(概要)会社法では、取締役の選任は、株主総会の普通決議で行うことができるため、過半数の議決権を有する当事者の意向のみで取締役を選任することになります。

(位置付け)この方法は、資本多数決の原則を採用した方法と位置付けられます。

 

(2)過半数の議決権を有する当事者及び少数派の当事者がそれぞれ指名した取締役を選任する方法

(概要)過半数の議決権を有する当事者の意向のみで取締役を選任することができるところ、少数派の当事者も取締役を指名できるようにし、過半数の議決権を有する当事者は、これに沿った形で株主総会において議決権を行使しなければならないとされます。

(位置付け)

この方法は、資本多数決の原則を修正した方法と位置付けられます。

(その他)

この場合にそれぞれが指名する取締役の員数については、出資比率に基づく場合が多いといえ、例えば、出資比率が51:49であれば、51パーセントの割合の株式を有する当事者が指名する取締役の員数は、3名で、49パーセントの割合の株式を有する当事者が指名する取締役の員数は、2名とします。

 

 


【代表取締役の指名権】

代表取締役は、合弁会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有し、重要な地位であるため、どちらが指名権を有するのかをあらかじめ合弁契約に規定することが多いといえます。

 

基本的には、出資比率が高い当事者が代表取締役となる者を指名することが多いですが、出資比率が低い当事者が指名した者が代表取締役となった方が事業上有利な場合には、出資比率が低い当事者が代表取締役を指名する場合があります。

 

 


【取締役会の決議要件】

会社法上、取締役会の決議要件は、原則、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、出席した取締役の過半数の賛成となっているため、多数派の当事者が指名した取締役の出席のみで取締役会決議を可決することが可能となります。

 

もっとも、これでは、少数派の当事者の意向が反映されないことになります。

 

そこで、出席した取締役の中に、多数派の当事者及び少数派の当事者のいずれの取締役が1名以上含まれていないときは、合弁契約上、取締役会の定足数を満たしていないものとして取り扱う場合があります。

 

 


 【役員の免責】

各当事者は、相手先が指名した役員に対し、相手方の事前の承諾を得ない限り、損害賠償請求その他の責任追及を行わない旨の条項を合弁契約に規定する場合があります。

 

これは、例えば、取締役は、善管注意義務により合弁会社の利益を図る必要がある一方、派遣元となる株主の意向も尊重する必要があるところ、仮に派遣元となる株主以外の株主から責任追及されるとなると、派遣元となる株主の意向を考慮しなくなるおそれがあることに基づきます。

 

 


【役員の解任】

自らが指名した役員と各当事者との間に意見の相違が生じた場合に備えて、合弁契約では、各当事者は、自らが指名した役員についてのみ解任を請求することができ、これにより各当事者全員は、解任の請求のあった役員が解任されるよう、その解任に関する株主総会の招集に係る取締役会決議において自らが指名した役員をして議決権を行使させ、自ら株主総会において議決権を行使することを義務付ける場合があります。

 

 


【役員の欠員】

各当事者が指名した役員について、辞任、解任等による欠員が生じたときは、その役員を指名する権利を有する当事者が新たに代わりとなる役員を指名できるとすることがあります。

 

 


【従業員の派遣】

合弁会社を設立した時点では、十分な人員を雇用することができない場合があるため、株主又はその子会社若しくは関連会社の従業員を合弁会社に派遣させる旨の条項を合弁契約に規定する場合があります。

 

 


【運営委員会】

合弁契約上、各当事者間の意見調整等を目的として会議体(=運営委員会)が設けられることがあり、その位置付けについては、次のものがあります。

 

(1)運営委員会を実質的な意思決定機関とするもの

⇒この場合、運営委員会で決定した内容に従い、各当事者は、株主総会において議決権を行使し、又は自己の指名した取締役をして取締役会において議決権を行使させることになります。

 

(2)運営委員会を代表取締役の諮問機関とするもの

⇒この場合、運営委員会において合弁会社の意思決定までは行われない形になります。

 

 


【重要事項の決定(拒否権条項)】

株主総会の特別決議を要する定款の変更、資本金の減少、合併等の株主総会決議事項及び取締役会決議事項(=重要事項)の決定については、当事者全員の同意により決定する場合が多いといえます(このような同意に関する条項を拒否権条項といいます。)。

 

これは、例えば、重要事項の決定に際し株主総会の特別決議が必要な場合には、「議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成」が必要であるところ、拒否権条項がなければ、多数派の当事者のみで決議を行うことが可能であり、少数派の当事者の合弁事業参加への意欲をそぐことになるためです。

 

もし、各当事者全員の同意がないときは、各当事者全員は、株主総会において議案が否決されるよう自ら議決権を行使し、又は取締役会において議案が否決されるよう自らが指名した取締役をして議決権を行使させることになります。

 

なお、当事者の一部が拒否権条項に違反して、各当事者全員の同意がないのにもかかわらず、自ら株主総会において議決権を行使し、又は自らが指名した取締役をして取締役会において議決権を行使させたときは、他の当事者は、その違反当事者に対し、コールオプション又はプットオプションを行使できるとすることがあります(この点については、拒否権条項に違反があった場合に備えて違約金を事前に定めておくことが考えられますが、違約金の額をどのようにするのかについて、交渉が難航するおそれがあることから、コールオプション又はプットオプションの行使を認める形がとられることが多いといえます。)。

 

 


【資金調達】

合弁会社において、資金調達が必要になった場合、次のいずれかの形で対応することが多いといえます。

 

(1)合弁会社が独力で資金を調達することとし、各当事者が出資、貸付等の資金拠出義務を負わない方法

(2)合弁会社が独力で資金を調達することとし、資金調達が困難なときは、各当事者が持株比率に応じて出資、貸付等の資金拠出義務を負うとする方法

(3)多数派の当事者のみが出資、貸付等の資金拠出義務を負うこととし、少数派当事者の持株比率が一定割合にまで低下し、又は資金拠出した金額が一定額に達したときは、重要事項の決定における少数派当事者の拒否権が消滅する方法

 

 


【合弁契約に違反した議決権の行使】

一方当事者が合弁契約に違反して議決権を行使したときは、他方当事者は、訴訟において合弁契約の内容どおりの議決権行使に代わる判決(意思表示の擬制)を求めることができます。

 

 


【剰余金の配当】

合弁事業の長期安定化を図る場合には、剰余金の配当を行わない形にし、投資資金の回収を重視する場合には、剰余金の配当を行う形にします。

 

 


【事業年度】

合弁会社の事業年度を合弁契約にあらかじめ定めておくことがあるところ、多数派の当事者の出資比率が51パーセント以上であれば、その多数派の当事者は、合弁会社の親会社となり、親会社と子会社の事業年度を統一する観点から、合弁会社の事業年度については、多数派の当事者の事業年度を規定することが多いといえます。

 

 


【プットオプション】

相手方に契約違反があった場合、相手方が支払停止又は支払不能の状態に至った場合その他一定の事由が生じた場合には、相手方に対して自らの合弁会社に係る株式の全てを買い取ることを請求できるようにする場合があります。

 

なお、1株当たりの買取価格については、例えば、合弁会社の直近の貸借対照表上の1株当たりの純資産額に1を上回る割合を乗じて得た額とすることがあります。

 

 


【コールオプション】

相手方に契約違反があった場合、相手方が支払停止又は支払不能の状態に至った場合その他一定の事由が生じた場合には、相手方に対して相手方の合弁会社に係る株式の全てを自らに売り渡すことを請求できるようにする場合があります。

 

なお、1株当たりの売渡価格については、例えば、合弁会社の直近の貸借対照表上の1株当たりの純資産額に1を下回る割合を乗じて得た額とすることがあります。

 

 


【デッドロック】

重要事項の決定について少数派の当事者の同意を得ることができず、デッドロック状態に至ったとき、次のいずれかの形で対応することが多いといえます。

 

(1)各当事者から合弁契約を解除できることとし、解除権を行使した当事者が多数派の当事者であるときは、多数派の当事者から少数派の当事者に対してコールオプションを、解除権を行使した当事者が少数派の当事者であるときは、プットオプションを、それぞれ請求できるとする方法

(2)合弁会社を解散させる方法

 

 


【解除権の行使】

合弁契約において一方当事者から相手方に対して解除権を行使した場合、その一方当事者から相手方に対して損害賠償請求のみならず、コールオプション又はプットオプションを請求できるとすることがあります。

 

 


【合弁会社の株式の譲渡制限】

会社法上自由に合弁会社の株式を譲渡することができるのが原則ですが、自由に合弁会社の株式を譲渡できるとすると一方的に合弁事業から撤退することになったり、又は好ましくない第三者が合弁会社の株主となるおそれがあるため、合弁契約では、次に掲げる場合を除き、合弁会社の株式を譲渡してはならないとすることが多いといえます。

 

(1)他の当事者全員の同意がある場合。

(2)当事者の一方が第三者に対して合弁会社の株式を譲渡する場合において、他の当事者にその株式の取得の機会を与え、他の当事者が希望すれば、その株式の全部を他の当事者が同条件で取得できるとしている場合(=先買権)。

 

先買権については、当事者の一方に合弁会社の株式を譲渡する機会を与えつつ、(1)当事者の一方による第三者への合弁会社の株式の譲渡を受け入れ、新しい株主との間で合弁会社を運営するか、又は(2)自ら先買権を行使して合弁会社の株式を買い取ることにより、新しい株主の出現を防ぐかという二つの選択肢を当事者の他方に与えることを目的にしています。

 

なお、譲渡希望当事者が合弁会社の株式を第三者に譲渡する場合には、次のいすれかを条件にすることが多いといえます。

(1)譲渡希望当事者と譲渡希望当事者以外の当事者との間の合弁契約と同じ内容の契約を第三者と譲渡希望当事者以外の当事者との間で締結できること。

(2)合弁契約における譲渡希望当事者の地位を第三者に承継させること。

 

 


【競業避止義務】

各当事者が合弁会社と競合する事業を行うと合弁会社の事業に支障をきたすおそれがあるため、合弁契約の有効期間中及びその終了後一定期間、各当事者自ら又は第三者を通じて合弁会社と競合する事業を営んではならないとすることがあります。

 

 


【勧誘の禁止】

合弁契約では、競業避止義務を規定するのと同時に合弁契約の有効期間中及びその終了後一定期間、各当事者は、自ら又は子会社若しくは関連会社を含む第三者へ転職させることを目的として合弁会社の役員又は従業員に対して自ら又は第三者を通じて勧誘してはならないとすることがあります。

 

 


【知的財産権の取扱い】

合弁会社の事業内容が製品製造である場合等では、各当事者が合弁会社に対して特許権、商標権、ノウハウその他の知的財産権を実施し、使用し、又は利用する権利を許諾することがあります。

 

そこで、合弁契約には、各当事者が合弁会社に対して知的財産権の実施権等を許諾する旨の条項が規定されることがあります。

 

なお、合弁会社が許諾を受けた知的財産権の実施等に基づき新たな発明、創作等を行った場合の権利の帰属については、合弁会社の単独帰属とする場合又はその許諾を行った当事者及び合弁会社の共有とする場合があります。

 

 


【合弁事業の継続に関する協議】

合弁会社において連続して赤字になった場合等一定の場合には、各当事者間で合弁事業の継続に関して協議し、一定期間内に協議が成立しないときは、(1)合弁会社を解散させ、又は(2)別途合意が成立することを条件として一方当事者から相手方に対して株式の買取り又は売渡しを行う場合があります。