共同開発契約書の意義


【意義】

共同開発契約書は、複数の事業者が特定の技術開発のために人、物、資金等を拠出する場合に用いられます。

 

共同開発契約には、技術開発のコスト低減、技術開発の期間短縮、技術の相互補完等のメリットがあるとされます。

 

反対に複数の事業者間で開発を進める関係で進行管理の困難、重要情報の流出リスク等のデメリットがあるとされます。

 

 


【共同開発契約の法的性質】

共同開発契約は、次の点から、民法における準委任、請負又は組合でもない非典型契約とされます。

 

(1)準委任

⇒各当事者が相手方に対して準委任と同様に善管注意義務を有しているとは解されない。

 

(2)請負

⇒共同開発契約では請負のように仕事の完成に対して報酬を支払うという関係にはない。

 

(3)組合

⇒各当事者の離脱について、組合では債務不履行による解除を認めず、除名、脱退又は解散で処理する点で共同開発契約とは異なる。

 

 


【業務分担】

各当事者が単独で実施する業務(=単独業務)及び単独業務以外の業務で各当事者が共同で実施する必要がある業務(=共同業務)に分けて規定することが多いといえます。

 

業務分担は、費用負担及び成果の帰属に関連することあるため、重要といえます。

 

なお、共同開発契約は、民法における請負ではないことから、各当事者に仕事の完成義務が認められないと考えられます。そこで、明文をもって、「各当事者は、相手方に対し、単独業務又は共同業務の全部又は一部を完了する義務を負わない。」等と規定することが考えられます(反対に明文の規定により、各当事者が単独業務又は共同業務の全部又は一部を完了する義務を負う形にすることも可能です。)。

 

 


【共同開発契約に定めのない業務】

共同開発契約に定めのない業務が生じた場合、これが単独業務又は共同業務のどちらに該当するのかについては、まずは協議で取り決める形が多いといえます。

 

その上で、協議で合意できない場合には、次のいずれかの対応をとることになります。

 

(1)共同開発契約に定めのない業務を各当事者のいずれもが実施しない形

(2)共同開発契約に定めのない業務を共同業務とみなして各当事者が共同でこれを実施する形

 

 


【単独業務への協力】

単独業務については、各当事者が単独で実施するのが原則ですが、場合によっては、資料提供、調査その他の方法により相手方の協力が必要になることがあります。

 

そこで単独業務を実施する当事者の費用負担により、相手方がその単独業務の実施に協力しなければならないとすることがあります。

 

 


【費用負担】

単独業務の実施に必要な費用については、その業務を実施する各当事者が負担し、共同業務の実施に必要な費用については、各当事者が等しい割合で負担する形が多いといえます。

 

なお、上記の基準によってもどちらが費用を負担するのかが明らかにならないときは、その費用の性質、その費用の発生原因、その費用と単独業務との関連性等を勘案してどちらが費用を負担するのかを取り決めることがあります。

 

 


【第三者への再委託】

共同開発契約で重要情報の流出、成果の帰属の複雑化等を避けるため、各当事者が単独業務又は共同業務の全部又は一部を実施するに際し第三者へ再委託してはならないことが規定されることがあります。

 

ただし、専門知識を有する別の事業者へ試作品の製造等を再委託する必要がある場合には、その事業者への再委託を共同開発契約で個別に認める場合があります。

 

 


【情報等の提供義務】

共同開発契約において、各当事者は、相手方から請求があるときは、自ら保有する共同開発に有益な情報、試料又は資料(第三者へ秘密保持義務を負う情報、試料又は資料を除きます。)を相手方に対して提供しなければならないとすることがあります。

 

提供を受けた情報、試料又は資料については、共同開発の実施のためにのみ用いることとし、これらを解析し、又はリバースエンジニアリングをすることは、禁止されることが多いといえます。

 

なお、自ら保有する情報、試料又は資料を相手方に提供することが難しい場合には、その情報、試料又は資料を保有する各当事者が必要と判断したときに限り、相手方に対して任意に提供するとすることがあります。

 

 


【不争義務等】

安心して相互に情報が開示されることを企図して、相手方から開示を受けた情報については、開示を受けた当事者は、知的財産権の帰属又は有効性を争い、又は知的財産権の出願をしてはならないとすることがあります。

 

 


【公表制限】

特許出願との関係から共同開発契約の存在及び内容並びに各当事者が共有する成果の内容が早期公表されることを防止するため、各当事者がこれらを第三者に漏洩し、開示し、又は公表してはならないとすることがあります。

 

ただし、学会で成果を発表するといった事態も考えられるため、事前に相手方から同意を得たときは、各当事者が共有する成果を公表できるとする場合があります。

 

また、特許出願については、原則、出願日から1年6か月で出願公開されるため、出願公開の時点までに限り、共同開発契約の存在及び内容並びに各当事者が共有する成果の内容の公表を制限する場合があります。

 

 


【進行管理】

共同開発契約では、各当事者は、相手方に対し、適宜又は定期に自らの進行状況を報告しなければならないとすることがあります。

 

これを定めることにより、例えば、創作され得る成果が第三者の知的財産権を侵害するおそれがあることが発覚した場合、迅速に対応することが可能になります。

 

なお、進行管理に関連して各当事者に相手方に対する監査権を認めることがあり、この監査では、相手方における情報の管理体制を調査することを目的としています。

 

 


【開発体制の維持】

共同開発における開発体制を維持するため、共同開発に従事する従業員の人数並びに無償で共同開発に供する施設及びその施設内にある設備の内容を取り決めることがあります。

 

 


【成果及び知的財産権の定義】

成果の定義の如何により各当事者に帰属する成果の範囲が変わってくるため、成果の定義を明確にする必要があります。

 

成果の定義については、実務上、概ね「本共同開発に関して創作された発明、考案、著作、ノウハウ、営業秘密等の技術上の成果」といった形で定義付けられます。

 

また、知的財産権の定義の如何により「共同開発契約上の拘束を受ける知的財産権」の範囲が変わってくるため、成果の定義と併せて知的財産権の定義を明確にする必要があります。

 

知的財産権の定義については、実務上、概ね次のものが定義付けられます。

 

(1)知的財産基本法第2条第2項に定める「知的財産権」

(2)上記(1)に相当する外国における知的財産権

 

 


【成果の帰属】

成果に係る知的財産権について、共同開発契約では、次のいずれかの形で定めることが多いといえます。

 

(1)単独業務から生じた成果については、単独業務を実施した各当事者に単独で成果を帰属させ、共同業務から生じた成果については、各当事者全員に均等の割合で成果を帰属させる方法

 

(2)単独業務又は共同業務の別、費用負担等の如何を問わず各当事者全員に均等の割合で成果を帰属させる方法

 

(3)単独業務又は共同業務の別、費用負担等の如何を問わず各当事者全員に均等の割合で成果を帰属させつつも、自らが単独で創作したこと及び相手方が開示した秘密情報を利用していないことを合理的に証明できたときは、その各当事者に単独で成果を帰属させる方法

 

 


【職務発明等の取扱い】

共同開発契約では、法人の役員又は従業員により、職務発明(特許法)、職務考案(実用新案法)又は職務意匠(意匠法)が行われる可能性があるため、各当事者がそれぞれ就業規則、社内規則等において、特許を受ける権利、実用新案登録を受ける権利又は意匠登録を受ける権利を原始取得するよう合理的措置を講じなければならないとされることが多いといえます。

 

なお、これらの原始取得を行うときは、各当事者は、職務発明等を行った自らの役員又は従業員に対し、「相当の利益」を与える必要があります。

 

 


各当事者が単独で有する成果に係る知的財産権等の利用許諾

各当事者が単独で有する成果に係る知的財産権又は共同開発契約が開始される前に取得済みの知的財産について、その知的財産権を有する各当事者は、相手方に対し、相手方が単独業務又は共同業務を行うのに必要な範囲で利用を許諾する形がとられることがあります。

 

 


【各当事者全員が共有する成果の利用及び処分】

各当事者全員が共有する成果について、各当事者は、相手方の同意を得ずに利用できるとするものの、相手方の同意がない限り、第三者へ利用を許諾し、譲渡し、又は担保に供することができないとすることがあります。

 

 


各当事者全員が共有する成果の権利行使

共有の知的財産権が侵害された場合、共有者は、単独で損害賠償請求権等を行使できます。

 

そこで、共同開発契約では、各当事者全員が共有する成果の知的財産権を侵害し、又は侵害するおそれがある第三者に対して各当事者が自己の持分に応じて、単独でその持分の侵害に基づく損害賠償請求権、差止請求権その他の権利を行使できることを確認的に規定することがあります。

 

なお、上記とは別に共同開発契約において、相手方の同意がない限り、上記の第三者に対して各当事者が自己の持分に応じて、単独でその持分の侵害に基づく損害賠償請求権、差止請求権その他の権利を行使できないとすることがあります。

 

これは、上記の第三者に対して損害賠償請求権等を行使すると、その第三者が対抗措置として特許無効審判の請求を行い、特許権が消滅する等のリスクがあるためです。

 

 


【各当事者全員が共有する成果の出願】

各当事者全員が共有する成果を出願するときは、相手方の同意を得なければならないことを共同開発契約に規定することがあります。

 

特許法においては、「特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ、特許出願をすることができない。」とされているため、上記の共同開発契約における規定は、このような特許法の規定を確認したものと位置付けられます。

 

なお、各当事者全員が共有する成果を出願する場合には、事前又は事後に速やかに各当事者全員で出願費用の負担者等を定めた共同出願契約を締結しなければならないとすることがあります。

 

 


【改良成果が生じた場合の通知義務】

一定期間内において、各当事者が単独で有する成果又は各当事者全員が共有する成果について改良を行い、改良成果が生じたときは、その改良者は、相手方に対し、その旨を通知しなければならないとすることがあります。

 

その上で、改良成果の利用許諾についての取扱いが規定されます。

 

 


【開発禁止】

共同開発契約では、次のような形で各当事者による開発を禁止することがあります。

 

(1)第三者との開発

共同開発契約の有効期間中及びその終了後一定期間内は、各当事者は、第三者との間で共同開発契約に定める開発と同種又は類似の開発を行ってはならないとすることがあります。

 

(2)単独での開発

共同開発契約の有効期間中、各当事者は、単独で共同開発契約に定める開発と同種の開発を行ってはならないとすることがあります。

 

なお、上記の類似の範囲を明らかにするため、共同開発契約において、成分、効能等を基準に類似性を判断することを規定する場合があります。

 

 


【相手方の競合事業者が実施する開発への従事の禁止】

共同開発契約の有効期間中及びその終了後一定期間内は、独業務又は共同業務に従事した各当事者の担当者が相手方の競合事業者が実施する共同開発契約に定める開発と同種又は類似のものに従事することを禁止する場合があります。

 

 


【第三者との紛争】

単独業務若しくは共同業務の実施又は各当事者が単独で有する成果若しくは各当事者全員が共有する成果について、第三者から知的財産権侵害の主張がなされる等第三者との間で紛争が生じたときは、その各当事者は、相手方に対し、その旨を、直ちに通知しなければならないとすることがあります。

 

また、相手方の同意を得ることなく第三者との間で和解をし、又は第三者からの請求の全部若しくは一部を認めてはならないとすることがあります。

 

これらは、各当事者が第三者から知的財産権侵害の主張等をされた場合、相手方も利害関係を有する場合があるためです。

 

 


【共有成果を利用した製品の販売】

共同開発契約の終了後の一定期間内において、各当事者の一方が共有成果を利用した製品を相手方から購入し、これを第三者に販売するという流れで各当事者全員で事業化を行うことがあります。

 

なお、上記以外にも次のような形で事業化を行う場合があります。

 

(1)各当事者のいずれもが共有成果を利用して製品を製造し、これを第三者に販売することができる形

(2)共有成果を利用して製品を製造し、これを第三者に販売できる分野を各当事者ごとに割り振る形

 

 


【共同開発の中止】

やむを得ない事由により共同開発の継続が困難となったときは、各当事者は、共同開発を中止することができ、その場合、相手方に対し、何らの責任を負わないとすることがあります。

 

 


【個人情報の提供】

個人情報を活用して共同開発を行う場合に、各当事者が個人情報保護法に定める手続を行うことなく、個人情報を相手方へ提供すると本人からクレーム等の申し出を受ける可能性があります。

 

そこで、共同開発契約に個人情報の相手方に対する提供について、個人情報保護法に定める手続を履践していることを保証する旨の条項を定めることが望ましいといえます。

 

なお、逆に個人情報の漏洩リスク等を考慮し、個人情報ではなく、個人を特定できない形で統計情報を各当事者が相手方に提供する場合には、提供する統計情報には、個人情報が含まれないことを保証する旨の条項を定めることが望ましいといえます。