SaaS/ASPサービス利用規約の意義


【意義】

SaaS/ASPサービス利用規約は、顧客管理、勤怠管理等の各種ソフトウェアをユーザーがサービス提供者のサーバーにアクセスした上で利用する場合に用いられる規約で、サービス提供者とユーザー間には、「法律行為ではない事務の委託」があったものとして、準委任契約が成立しているものと考えられます。

 

 


【特徴】

ユーザーは、SaaS/ASPサービスの利用条件をサービス提供者との間で交渉することなく、サービス提供者が用意したSaaS/ASPサービス利用規約に同意するか否かの選択肢しか与えられておらず、個別に条項を変更することがあまりないのが特徴といえます。

 

そのため、SaaS/ASP利用規約は、民法上の定型約款に該当すると考えられます。

 

 


【SLA】

SaaS/ASPサービス利用規約では、その別紙において、サービス提供者の提供するサービスがあらかじめ定めた項目について一定のレベルに到達することをサービス提供者とユーザー間で合意することがあり、これをSLAといいます。

 

例えば、障害が生じてから復旧までの時間を〇時間以内に抑えること、ウィルスを検知してから〇時間以内に通知すること等が合意されます。

 

SLAに違反した場合の効果については、サービス料金を減額したり、SLAの規定を単に努力義務の規定とした上でサービス料金を減額しないことが考えられます。

 

 


【データ管理の責任】

Saas/ASPサービスを利用する際にユーザーが自らのデータを入力、転送等を行うところ、ハードウェア、ソフトウェア等の故障により、そのデータが消失してしまうリスクがあります。

 

そこで、Saas/ASPサービス利用規約では、Saas/ASPサービスを利用する際のデータのバックアップ及び復元は、ユーザーが自らの責任と費用負担で行う旨の条項が定められることがあります。

 

ただし、上記の条項を定めていたとしても、実際のSaas/ASPサービスにおいて、バックアップ及び復元が行えないのであれば、その条項の有効性に疑義が生じ得るため、サービス提供者としては、実際にデータのバックアップ及び復元が行えるように配慮することが重要といえます。

 

 


【サービス内容の変更】

バージョンアップ、機能追加等を目的としてSaaS/ASPサービスの内容の一部を変更することがあり、変更前の機能及び性能が維持されることまでは保証しない旨をSaas/ASP利用規約で明示することがあります。

 

これは、同じサービス内容が継続するとの期待をユーザーから持たれないようにするために定められます。

 

なお、これに付随して、サービス提供者による開発の負担を軽減するため、OSについてバージョンアップがあった場合でも、サービス提供者がそれに合わせて常に各種ソフトウェアのアップデートをしなければならない義務までは負わないことをSaas/ASP利用規約に規定することがあります。

 

 


【サービスの一時停止】

SaaS/ASPサービス利用規約においては、サービス提供者の定期保守、突発的な障害対応等のためSaaS/ASPサービスの全部又は一部の提供を停止することができる旨の条項が定められるのが通例といえます。

 

SaaA/ASPサービスでは、サーバーへのアクセス集中によりシステム障害が生じるリスクがあるため重要な規定といえます。

 

 


【サービスの廃止】

SaaS/ASPサービス利用規約においては、サービス提供者がSaaS/ASPサービスの全部又は一部の提供を廃止することができる旨の条項が定められることが通例といえます。

 

この廃止は、準委任契約の解除に該当すると考えられ、天災等のやむを得ない事由がある場合を除き、相手方に不利な時期に解除すると損害賠償責任の対象となり得ます。

 

そのため、天災等のやむを得ない事由により廃止するときは、予告期間を設けないものの、そのような事由がなければ、サービス提供者がユーザーに一定の予告期間を通知した上で廃止できるとすることが多いといえます。

 

 


【サービス提供者の損害賠償責任の限定】

SaaS/ASPサービス利用規約においては、仮にサービス提供者がユーザーに損害賠償責任を負うことになったときは、サービス提供者に故意又は重過失がある場合を除き、一定の金額を上限とすることが多く行われています。

 

例えば、損害賠償額をユーザーがサービス提供者に支払った過去〇か月分の委託料を限度とするものがあります。

 

なお、上記でサービス提供者に故意又は重過失がある場合が除かれているのは、サービス提供者に故意又は重過失がある場合にまで損害賠償責任の限定を行うと信義則、消費者契約法(ユーザーが消費者の場合に適用される法律)等に違反することになり、その部分について、無効になるおそれがあるためです。

 

 


【入力データ等の利用】

SaaS/ASPサービスの改良又は維持管理を目的とした統計調査のため、サービス提供者がユーザーにより入力されたデータ、ユーザーのSaaS/ASPサービスの利用状況等を解析その他の方法で利用できるとすることがあります。

 

特にユーザーにより入力されたデータについては、ユーザーの営業秘密に該当する可能性があるため、サービス提供者がユーザーにより入力されたデータ等を利用する場合には、その旨をSaaS/ASPサービス利用規約に規定することが重要といえます。

 

なお、上記に加えてサービス提供者がチャットボットサービスを行う場合には、ユーザーが入力した質問データをサービス提供者がAIの学習データとして利用できるとすることがあります。

 

 


【SaaS/ASPサービス利用契約終了時の処理】

SaaS/ASPサービス利用契約が終了したときは、情報漏えいリスクを低減するためサービス提供者は、その終了日から一定の期日までにユーザーに関する保存データを消去しなければならないとすることがあります。

 

その上でサービス提供者は、ユーザーに関する保存データを消去したことによりユーザーに生じた損害について、ユーザーに対して何らの責任を負わないとすることがあります

 

ただし、他事業者のSaaS/ASPサービスに乗り換えるため、ユーザーが自らに関する保存データの提供をサービス提供者に求めたときは、サービス提供者は、有償によりそのデータを提供することがあります。

 

 


禁止行為

SaaS/ASPサービス利用規約においては、サービス提供者又は第三者の知的財産権を侵害する行為、ウィルスを含む有害なコンピュータープログラムを送信する行為、第三者にSaaS/ASPサービスを利用させる行為等をユーザーが行ってはならない行為(=禁止行為)として定めることが多いといえます。

 

禁止行為として定められた行為は、SaaS/ASPサービス利用規約違反する行為として、解除事由に該当するため、禁止行為の条項は、重要になります。

 

なお、SaaS/ASPサービス利用規約に全ての禁止行為を規定するのが体裁面又はメンテナンス面から難しい場合には、SaaS/ASPサービス利用規約に禁止行為を個別具体的に規定するのと同時にリンクを貼った上で別途ウェブサイトに記載された禁止行為の内容を禁止行為の範囲に含める場合があります。

 

 


【不適切な禁止行為の定め方】

実務上、SaaS/ASPサービス利用規約において「その他当社が不適切と判断する行為」等という形でサービス提供者が禁止行為の内容を恣意的に決定できる旨の条項が規定されている場合があります。

 

この点については、サービス提供者が自由に禁止行為を決定できることになり、ユーザーにとって過度に不利になっているといえ、消費者契約法に違反するおそれがあります。

 

そのため、このような規定においては、少なくとも「その他当社が不適切と合理的に判断する行為」等の形で歯止めをかけるような形にする必要があります。

 

 


【ユーザーが禁止行為に違反した場合の対応】

ユーザーが禁止行為に違反した場合の対応については、概ね次のものがあります。

 

(1)SaaS/ASPサービスの一時的な利用停止

(2)SaaS/ASPサービスに関する利用契約の解除

 

 


【環境整備】

SaaA/ASPサービスを利用するために必要な端末機器、インターネット接続、無線 LAN 接続等の環境については、ユーザーが自らの責任と費用負担により整備することがSaaA/ASPサービス利用規約に規定されることが多いといえます

 

なお、上記に加えてサービス提供者は、ユーザーが整備した環境と各種ソフトウェアとの間の整合性について何らの保証をしないことが併せて規定されることがあります。

 

 


【通知方法】

SaaS/ASPサービスでは、多くのユーザーが利用するサービスであるところ、ユーザーの要望に応じて様々な通知方法に対応するとなるとサービス提供者の負担が増えるおそれがあります。

 

そこでSaaA/ASPサービス利用規約において、サービス提供者からユーザーに対する通知方法を電子メール、チャット等でのやり取りに限定する場合があります。

 

なお、電子メールの場合、電子メールの不到達という事態があり得るため、ユーザーに電子メールが到達しなかった場合でも、サービス提供者の責めに帰すべき事由がない限り、その不到達によりユーザーに生じた損害について、サービス提供者は、何らの責任を負わないとすることがあります。

 

 


【チャット機能】

SaaS/ASPサービスにおいてユーザーにチャット機能を提供する場合があるため、次の点が規定されることがあります。

 

1.ユーザーによるSaaS/ASP利用規約への違反行為の有無を確認する場合その他SaaS/ASPサービスの提供上必要な場合において、かつ、法令に違反しない限りにおいて、サービス提供者がチャットの内容を確認できること。

(電気通信事業法との関係)電気通信事業法第3条(検閲の禁止)において、「電気通信事業者の取扱中に係る通信は、検閲してはならない。」と規定されている関係でチャットの内容をサービス提供者が閲覧できる場合は、次のような場合に限られます。

 

(1)チャットの閲覧についてユーザーの有効な同意がある場合(例:フィルタリングサービス)

(2)法令行為に該当する場合(例:令状による通信履歴の差押え)

(3)正当業務行為に該当する場合(例:料金請求のための通信履歴の活用)

(4)正当防衛又は緊急避難に該当する場合(例:人命救助のための利用)

 

2.ユーザーがチャット上において他のユーザーを誹謗中傷するような内容等を送信しないこと。

 

 


【権利処理】

SaaS/ASPサービスにおいてユーザーが投稿した写真、動画、コメント等のコンテンツを表示画面のレイアウトの都合上、縮小する場合、サービス提供者が自らの営業用資料に掲載する場合等ユーザーの著作物をサービス提供者が利用する場合が想定されます。

 

そこでSaaS/ASPサービス利用規約においては、次のような形で権利処理がなされることがあります。

 

(1)ユーザーがサービス提供者に対して自らが投稿した写真、動画、コメント等のコンテンツの利用を無制限に許諾するパターン

 

(2)ユーザーがサービス提供者に対して自らが投稿した写真、動画、コメント等のコンテンツの利用をSaaS/ASPサービスの運営に必要な範囲で許諾するパターン

 

(3)ユーザーがサービス提供者に対して自らが投稿した写真、動画、コメント等のコンテンツの著作権(著作権法第27条及び同法28条に定める権利を含みます。)を無償譲渡するパターン

 

実務では、上記の(3)のパターンを採用するとユーザーからの反発が予想されるため、(1)又は(2)のいずれかのパターンを採用するのが望ましいとされます。

 

なお、上記のいずれのパターンを採用した場合であっても、SaaS/ASPサービス利用規約において何らの手当を行わなければ、著作者であるユーザーから著作者人格権を行使されるおそれがあるため、その不行使に関する条項をSaaS/ASPサービス利用規約に規定することが重要といえます。

 

 


【合意管轄】

SaaS/ASPサービスでは、多くのユーザーを対象とするところ、あらゆる地域のユーザーから訴訟が提起されるとサービス提供者の負担が大きくなるため、SaaS/ASPサービス利用規約には、サービス提供者の本店所在地等を管轄する裁判所を専属的合意管轄裁判所とする合意管轄の条項を規定することが通例といえます。

 

 


【電気通信事業法に基づく届出】

サービス提供者がチャット機能を提供する場合には、電気通信事業法に基づく届出が必要になります。

 

 


【特定商取引法に基づく表示】

SaaS/ASPサービスは、特定商取引法の通信販売に該当することになるため、次の項目について特定商取引法に基づく表示をする必要があります。

 

(1)サービス提供者の氏名又は名称(法人の場合には、代表者又は運営責任者の氏名も必要)、住所及び電話番号

⇒住所については、私書箱住所等ではなく、現に活動している住所を記載する必要があります。

⇒電話番号については、電話番号を記載するのではなく、メール等で問い合わせがあれば遅滞なく電話番号を開示する旨を記載することも可能です。

 

(2)料金

⇒消費税を含んだ料金を記載することになりますが、実際には、個別のウェブサイトのページへリンクする形が多いといえます。

 

(3)料金以外にユーザーが負担すべき金銭がある場合には、その内容及び金額

⇒主にSaaS/ASPサービスを利用する場合に要する通信費用がこれに該当します。

 

(4)支払時期及び支払方法

⇒支払時期については、前払い又は後払いの別が、支払方法については、クレジットカード決済等が記載されることが多いといえます。

 

(5)サービスの提供時期

⇒いつの段階でSaaS/ASPサービスを利用できるのかが記載されます。

 

(6)キャンセルに関する事項

⇒利用規約又は個別のウェブサイトのページへリンクする形がとられることがあります。

 

(7)動作環境

⇒こちらでは、OSの種類等が記載されますが、実際には、個別のウェブサイトのページへリンクする形が多いといえます。