No.16-遺言・離婚で必要な公証役場の知識


 

Q 公正証書とは何かについて説明してください。

 

 


 

A

<公証証書の機能>

公正証書には、大きく分けて①紛争予防機能と②紛争解決機能があります。

 

「紛争予防機能」

紛争予防機能は、離婚給付契約・遺言等の法律行為に関して、公証人という公務員が公正証書を作成することにより、私人間の権利義務関係につき証拠を保全し、紛争の発生を未然に防止する機能をいいます。

 

公証人が公正証書を作成することにより、それが文書作成者の意思に基づいて作成されたものと推定され(形式的証拠力)、公正証書は嘱託人が公証人の面前で陳述した事項を録取して作成されるため、その内容を嘱託人が陳述したという事実について証拠力を有します(実質的証拠力)。

 

「紛争解決機能」

全部の公正証書に認められるわけではありませんが、一定の要件を充たす公正証書は、「執行証書」と呼ばれ、確定判決と同じ執行力が認められます。

 

一般的な感覚だと、相手の財産へ強制執行するためには、勝訴判決を得る以外他に方法はないと思い込んでしまいそうになりますが、紛争が予見される場合には、事前に一定要件を備えた公正証書すなわち「執行証書」を用意しておくと、公正証書でも相手の財産に強制執行していくことが可能になります。

 

煩雑な訴訟手続を回避したい場合には、公正証書は検討する価値が十分にあるといえます。

 

 

<公証役場での代理手続>

公正証書は、公正証書遺言と尊厳死宣言公正証書を除いて、公正証書作成の嘱託を代理人によっても行うことができ、原則代理人となる資格に制限はありません。

 

特に、法的なことは苦手という方や日中仕事が忙しくて公証役場に自ら赴けないといった場合等には、公正証書作成嘱託を行政書士をはじめとした専門職に委任することも検討するとよいと思われます。

 

 

<執行証書により強制執行できる根拠>

民事執行法22条5号を根拠として、確定判決を得ることなく、執行証書により強制執行することも可能です。

 

強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。

一  確定判決

二  仮執行の宣言を付した判決

三  抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)

四  仮執行の宣言を付した支払督促

四の二  訴訟費用若しくは和解の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第四十二条第四項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては、確定したものに限る。)

五  金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)

六  確定した執行判決のある外国裁判所の判決

六の二  確定した執行決定のある仲裁判断

七  確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)

 

 

<執行証書となるための要件>

公正証書が執行証書となるためには、以下の要件が必要とされます。

 

一定の金銭の支払いを目的とする請求権についての公正証書であること。

この要件については、給付文言として公正証書上に記載される必要があり、例えば、「債務者は、債権者に対して金○○○万円を支払う。」というような体裁で定めるべきとされます。

 

したがって、例えば、「売買代金を金○○○万円とする。」というような定め方は、給付文言に該当せず不適切なため、正確に「支払う。」と記載すべきとされます。

 

 

債務者が債務を履行しないとき、直ちに強制執行に服する旨の陳述があること。

ここでいう「直ちに」とは、債務を履行しないとき、今すぐにという意味ではなく、裁判手続によらず執行証書による強制執行を受けても異論はありませんという意味です。

 

 

<公正証書作成の手数料>

公証人に、公正証書を作成してもらう場合、「公証人手数料令」という政令で定める範囲で手数料を支払わなければなりません。

 

この公証人手数料令には、手数料のほか、旅費、日当についても定められており、手数料は、原則として、証書の正本等を交付する時に現金で支払います。

 

 

<公証役場の管轄>

公証人は、原則として公証役場として開設した事務所で執務を行うことになっていますが、病院や嘱託人の自宅で公正証書遺言を作成したり、貸金庫の開披における事実実験公正証書を作成する場合等では、公証役場以外で執務を行えます。

 

また、公証人は、自己が所属する法務局・地方法務局の管轄外で職務を行うことはできないことになっています。しかし、管轄区域外に居住する嘱託人が他の管轄地にある公証役場に赴いて公正証書を作成することは可能です。

 

例えば、埼玉県所在の人が東京法務局所属の公証人に公正証書遺言の作成を嘱託することが可能です。

 

 

<公正証書の保存期間>

公正証書の保存期間は公証人法施行規則第27条に定められ、公正証書はその作成時の翌年から起算して20年間保存することになっています。

 

もっとも、この保存期間の例外として,履行につき確定期限のある債務又は存続期間の定めのある権利義務に関する法律行為につき作成した公正証書の原本についてはその期限の到来又はその期間の満了の翌年から10年を経過したときは,保存の義務はなくなります(公証人法施行規則27条1項ただし書)。

 

また,遺言や任意後見契約など保存期間の満了した後でも保存の必要があるものについてはその事由のある間保存しなければならないことになっています(公証人法施行規則27条3項)。

 

実務では、遺言公正証書については、遺言者の死亡を把握することが困難なため、半永久的に保存されます。

 

 

<公正証書の原本・正本・謄本の違い>

公証人は、当事者から聴取した内容を公正証書にしますが、その作成される証書には、原本・正本・謄本の三種類があります。

 

「原本」

作成された公正証書そのものをいい、公証役場において、原則として20年(ただし、履行期限の定められている証書は、履行期到来後10年)保管されます。

 

このように、公正証書の原本は、公証役場で保管され、外部への持ち出しができないため、原本の内容をそのまま写した正本・謄本が嘱託人に交付されます。

 

「正本」

正本は、原本と同じ効力があるものです。持ち出しができない原本に代わり、原本と同じ効力を持つ写しとして嘱託人(執行証書の場合は債権者)に交付されます。

 

なお、強制執行の申立てをするには、正本が必要で、執行証書の正本に執行文の付与を受けることで、強制執行手続を申し立てを行うことができます。

 

「謄本」

原本の写しとして嘱託人(執行証書の場合は債務者)に交付されます。例えば、金銭消費貸借契約の場合、借主の方に、謄本が交付されます。

 

 

<公正証書正本・謄本の紛失と再交付>

公正証書の原本は公証役場で一定期間保存され、公正証書の正本・謄本は原本作成時に嘱託人に交付され,もし嘱託人がこれを紛失したり誤って廃棄した場合等には,正本については嘱託人又はその承継人,謄本については嘱託人やその承継人又は法律上の利害関係のある者であれば公証役場で公証人が保存している原本に基づいて再度正本や謄本を手に入れることができます。

 

 

公正証書作成時の代理人の意義

当事者本人のうち、公証役場に赴けない場合には、遺言公正証書等の場合を除いて、本人の委任状を持った代理人でも公正証書作成に関する嘱託手続を行えます。

 

代理人は、当事者双方の代理を1人ですることはできないとされ、例えば、金銭や建物の貸し借りのとき、借主は、保証人の代理人にはなれますが、貸主の代理人にはなれません。

 

 

<公正証書作成時に必要な委任状>

委任状は、契約当事者(法人の場合は代表者)が、公正証書作成当日に公証役場へ赴くことができず、公正証書の作成手続を代理人に委任する場合に、その代理人が真正な代理権を有することを証するために必要なものです。

 

この、委任状の形式は白紙委任状では認められず、契約の内容と公正証書を作成することを委任する旨の記載が必要です。

 

なお、委任状を作成した後に1字でも加除訂正すると、欄外に訂正印が必要になります。

 

 

<代理人が公証役場へ赴く場合に提出する必要書類>

委任状(複数枚に亘る場合、契印が必要)と併せて、

①本人が個人の場合は、3ヶ月以内発行の印鑑登録証明書

②法人の場合は、3ヶ月以内発行の印鑑証明書及び資格証明書

③代理人の身元を証明する資料として、

印鑑証明書(印鑑登録証明書・発行3か月以内のもの)

運転免許証

住民基本台帳カード(写真付きであること)

旅券

のうちどれか一つ

がそれぞれ必要なります。