No.11-契約書作成時に定めておきたい各種条項


 

Q 契約書を作成する場合に定めておくと有益な条項はありますか?

 

 


 

A

これから新規の取引先との間で取引基本契約書を作成する場合、下記のような条項を入れておくと、有益といえます。

<相殺条項>

⇒ 相殺条項とは契約当事者がそれぞれ金銭債権等の同種の債権を有している場合に、双方の債権を対当額で消滅させるものです。

 

例えば、AがBに600万円の債権を、BがAに400万円の債権をそれぞれ有している場合に、相殺がなされると、その結果、AのBに対する残債権が200万円となります。

 

この相殺条項は、契約書中に規定を設けなくとも、民法の規定により相殺すること可能です。

 

しかし、民法が定める相殺制度は、当事者双方の債権が弁済期にあることが要件とされ、使い勝手が悪いとされています。

 

ただし、相殺する側の債権の弁済期が到来しさえすれば、必ずしも、両債権が弁済期にあることまでは要しないとされています。

 

そこで、相殺条項を定めて、弁済期の到来に関係なく相殺できるように規定します。具体的には、弁済期の如何にかかわらず、いつでも当事者双方が相殺できるように規定します。

 

また、相殺条項を活用して、親会社が第三者に対して有する債権と第三者が親会社の子会社に対して有する債権を相殺する等、三者間での相殺も可能となります。

 

 

<合意管轄条項>

⇒ 合意管轄条項とは、当事者の合意によって管轄裁判所を決めるものです。合意管轄条項では、どこの裁判所に訴えるのかという土地管轄のみならず,第一審を簡易裁判所と地方裁判所のどちらで行うのかという事物管轄についても合意することができます。

 

合意管轄条項は、当事者間で契約内容に疑義が生じ、話し合いによる解決を行ったものの、それが不調となり、結果として裁判にまで至った場合、重要な規定となります。

 

例えば、自社の本店所在地が東京で、相手方の本店所在地が沖縄の場合で、管轄について契約内容で特に定めていなかったときは、被告の本店所在地を管轄する那覇地方裁判所や那覇簡易裁判所で裁判を行うことになります。これだと、沖縄までの交通費や弁護士への日当等を考えると、経済的負担が大きくなります。

 

そこで、自社の本店所在地を管轄する裁判所で裁判を行うことをあらかじめ取り決めておくと、経済的負担が軽くなり自社にとって有利になります。

 

ただ、管轄合意の面で、自社にとって完全に有利にするためには、法定管轄裁判所に付加して当事者が合意した裁判所に管轄を認める付加的管轄合意ではなく、当事者が合意した裁判所にのみ管轄を認める専属的管轄合意とする必要があります。

 

 

 

<保証金条項>

⇒ 保証金条項は、主に1回限りに単発的な取引ではなく、継続的な取引の場合に用いられ、契約上の債務や損害賠償債務の支払を確保するために、債務者から債権者へ保証金が差し出されるものです。

 

仮に債務者が代金を支払わない等、債務者に債務不履行の事実があった場合、債権者は保証金を債務に充当し、債権の回収を図ることが出来ます。

 

 

 

<連帯保証人条項>

⇒ 連帯保証人条項とは、金銭消費貸借契約のみならず取引基本契約や売買契約等においても用いられる条項であり、連帯保証人は主たる債務者が債務を履行しない場合、これに代わって履行する債務を負っています。

 

 

 

<物・サービスの特定条項>

⇒ 契約の目的物やサービス内容を第三者の目から見て分かりやすく記載する必要があります。

 

確かに、物やサービス内容を特定するのは当たり前のように思えますが、当事者同士で、それらについて微妙に認識のズレが生じているケースも考えられるため、正確に物やサービス内容を特定する必要性はあるものと考えられます。

 

物やサービス内容を特定する方法としては、別紙を用いることが有用です。別紙に、商品の名前・品番・数量等を具体的に記載していきます。

 

 

 

<権利義務の譲渡制限条項>

⇒ 債権の譲渡は、民法上相手方の承諾無く自由に行え、債務の譲渡については民法上の規定は無いものの、債務引受として認められています。

 

もっとも、債権債務の譲渡が可能であっても、信頼の置けない第三者へ債権債務が譲渡されることにより、不測の損害を被る危険があります。

 

そこで、債権債務を譲渡するためには、事前に相手方から承諾を得ることが考えられます。

 

 

 

<所有権留保条項>

⇒ 所有権留保条項とは、買主が代金を支払うまで、売主に所有権を留保させ、仮に買主が代金を支払わない場合、契約解除を行って、商品を取り戻し出来るとする条項です。

 

この条項を設けることにより、商品を取り戻せるため、売主の損害拡大を防ぐことができます。

 

ただ、商品を取り戻すにしても、買主の意思に反して勝手に取り戻すと、住居侵入罪等が成立する可能性があるため注意が必要です。

 

 

 

<存続条項>

⇒ 存続条項とは、秘密保持義務や知的財産に関する事項等、契約が終了しても効力を存続させる必要性が高いものについて、契約終了後も効力を存続させる条項です。確かに、契約の効力は、契約期間が終了したら、消滅するのが基本ですが、当事者の合意により、契約が終了しても効力を存続させることができます。

 

ただし、あまりにも長い期間、効力を存続させてしまうと、無効になる場合もあります。

 

 

 

<納入条項>

納入条項とは、納入時期・納入場所・納入費用等の納入条件に関する条項をいい、そこでは、納入条件は個別契約で定めるとされるのが一般的です。

 

 

 

<目的条項>

⇒ 目的条項は、契約の目的や基本原則を定める条項であり、契約書の冒頭に書かれますが、それ自体法的効力を有するものではありません。それ自体が当事者を拘束するものではないので定めなくてもよい条項です。

 

もっとも、定めることにより、自己を有利にすることができるので定めることに一定の意義はあります。

 

例えば、目的条項に、「近年消費者に対する製品安全への要請が高まっている・・・・・・・」等の一文を入れると、取引基本契約等で、買主が売主に対して、より厳しい品質保持義務を負わせやすくなります。

 

 

 

<無催告解除条項>

⇒ 何ら催告することなく、解除することができる条項です。民法では、解除するには履行不能以外の場合、事前に債務者への催告が要求されているのを当事者間の特約で、催告なしに解除することができるようにするのがこの条項の趣旨です。

 

もっとも、あまりに軽微な事由で、無催告解除を認める特約は、信義則違反として、解除が無効になることもあるため注意が必要です。