システム保守運用業務委託契約書の意義


【意義】

システム保守運用業務委託契約書は、委託者へ導入されたシステムが円滑に稼働できるよう受託者が主に次に掲げるシステム保守運用業務を委託者へ実施する場合に用いられる契約書で、仕事の完成を目的としない準委任型の契約として位置付けられます

 

(1)システムの不具合の修補

(2)操作方法等に関する問い合わせ対応

(3)第三者ソフトウェアのバージョンアップ

 

基本的に他の事業者が開発したシステム(特にフルスクラッチのもの)を対象としてシステム保守運用業務を行うには、プログラムの解析が必要となり、多大な労力を要するため、システム開発を実施した事業者がそのままシステム保守運用業務の受託者になることが多いといえます。

 

 


【システム開発契約等に基づく契約不適合責任との関係】

システム稼働時の障害については、それがシステム開発基本契約等における契約不適合責任の範囲であれば委託者は、受託者に対し、これを根拠にその修補を求めることになります。

 

 


【システム保守運用業務委託契約の締結時期】

システム保守運用業務委託契約の締結時期については、システム稼働当初には、委託者から受託者に対して多くの問い合わせが行われるという実態から、システム開発基本契約等における検収終了時とすることが多いといえます。

 

 


【システム保守運用業務の態様】

受託者がどのような態様で委託者に対してシステム保守運用業務を実施するのかを次の項目を中心に明確にすることが重要となります。

 

(1)ソフトウェアのみならずハードウェアも保守運用業務の対象か?

(2)ハードウェアも保守運用業務の対象とした場合、オンサイト保守、センドバック保守又はデリバリー保守のどれを実施するか?

(3)保守運用業務の実施時間帯をどのようにするのか?

(4)システム障害の調査時にリモートサービスを実施するか?

 

 


【システム保守運用業務から除かれる場合】

委託者の故意又は過失によりシステムを不適切に使用したことにより生じた不具合、受託者へ事前に通知することなく委託者がシステムを追加、変更等をしたことにより生じた不具合等については、受託者が実施するシステム保守運用業務から除かれる場合があります。

 

ただし、追加の委託料及び不具合の調査費用を支払うことを条件として、受託者がこれらの不具合を修補することがあります。

 

 


【問い合わせ窓口の明示】

システム保守運用業務のうち、操作方法等に関する問い合わせ対応について、委託者から受託者の複数の連絡先に対して多くの問い合わせがあると受託者の負担になるおそれがあります。

 

そこで、受託者の問い合わせ窓口をシステム保守運用業務委託契約書に明示し、委託者が受託者に対して問い合わせるときは、その窓口へ連絡しなければならないとすることがあります。

 

 


【システム保守運用業務の実施時における指示】

偽装請負と評価されないようにするため、システム保守運用業務を実施する際の受託者の要員に対する指示を受託者が行うことをシステム保守運用業務委託契約書に規定することがあります。

 

 


【委託料】

システム保守運用業務委託契約における委託料の定め方については、月額の基本料金を基本、稼働時間が一定時間を超えると超過料金が生じる形が多いといえます。

さらには、オプション料金(ex.オンサイト保守の特別料金)が発生する場合もあります。

 

 


【再委託】

システム保守運用業務委託契約の場合、すでにシステムが稼働状況下にあり、受託者が委託者の顧客情報等に触れる機会が増えるため、委託者の立場からすれば、委託者の事前の承諾がない限り、受託者は、システム保守運用業務を再委託することができない形が望ましいといえます。

 

 


【一時停止】

火災、事変等の非常事態が生じて回線が不通になったこと、保守運用業務に供する建物その他の設備に工事又は保守があること等により、受託者が保守運用業務の全部又は一部を実施しなかったとしても、受託者は、何らの責任を負わない旨の条項が規定されます。

 

 


【不保証】

次のようなシステム保守運用業務の性質上実現できない事柄については、受託者は、これを保証しない旨の条項がシステム保守運用業務委託契約書に規定されることがあります。

 

(1)システムが常に正常稼働すること。

(2)保守運用業務の実施によりシステムの不具合が必ず解消され、又はシステムのバージョンアップが必ず実現されること。

(3)システムに関するデータが消滅しないこと。

 

 


【システム保守運用業務委託契約の有効期間】

システム保守運用業務委託契約の有効期間については、他の継続的契約と同様に自動更新制が採用されることが多いといえます。

 

ただし、システム保守運用業務委託契約において、今まで保守運用業務を委託していた受託者が突如契約更新を拒絶した場合、委託者は、新たな受託者に切り替える必要があるところ、新たな受託者が一から対象のシステムを分析及び把握をした上で保守運用業務を行うとなると委託料が増加するおそれがあり、委託者の不利益になるという面があります。

 

また、新たな受託者への切り替えに際し、従前の受託者と同等以上の技術力があり、かつ、委託者の業務内容に理解のある受託者を委託者が迅速に見つけ出すことができるのかという問題もあります。

 

そのため、委託者としては、システム保守運用業務委託契約の有効期間については、その期間自体を長めに設定する等の対策が重要になってくるといえます。

 

 


【第三者ソフトウェアのサポート終了等に伴うシステム保守運用業務委託契約の終了】

システムを構成する第三者ソフトウェアのサポートが終了した場合、自然消耗又は老朽化によりハードウェアの修理ができない場合等では、受託者がシステム保守運用業務を実施することが困難となるため、第三者ソフトウェアのサポート終了等をシステム保守運用業務委託契約の終了事由とすることがあります。

 

 


【権利帰属】

システム保守運用業務の実施に際し受託者がプログラムの修正を行うとその修正したプログラムの著作権が受託者に帰属する形になり、システム開発基本契約等においてプログラムの著作権を委託者に帰属させている場合、権利関係が複雑になります。

 

そこで、システム保守運用業務の実施に際して生じた著作権(著作権法第27条及び同条第28条に定める権利を含みます。)は、その権利の発生と同時に委託者に帰属し、受託者が著作者人格権を行使しない旨の条項をシステム保守運用業務委託契約に規定することがあります。