著作物利用許諾契約書の意義


【意義】

著作物利用許諾契約書は、ライセンサーがライセンシーに対して写真、イラスト、キャラクター等の著作物の利用を許諾する場合に、その利用条件を取り決めるために用いられる契約書をいいます。

 

ライセンサーから著作物の利用許諾を得た場合、ライセンシーは、ライセンサーに対して著作物の利用を容認することを請求できる債権を取得したことになります。

 

そのため、ライセンシーが利用条件を遵守している限り、ライセンシーは、ライセンサーから差止請求等の権利行使を受けないことになります。

 

 


【共有著作権の場合の対応】

著作物の著作権が共有の場合に、その利用を第三者に許諾するときは、著作権法上、共有者全員の同意が必要となります。

 

 


【二次的著作物を利用する場合の対応】

著作物が二次的著作物であった場合に、その二次的著作物を利用するときは、二次的著作物の著作権者のみならず、原著作物の著作権者からも利用許諾を得る必要があります(二次的著作物を利用するに際し、原著作物のうち、創作性のある部分を利用するか否かを問わないとされます。)

 

 


【独占的利用許諾と非独占的利用許諾】

著作物利用許諾契約の種類には、次のものがあります。

 

(1)完全独占的利用許諾

これは、ライセンサーが複数人に対して著作物の利用を許諾することができず、特定の一人に対してのみ著作物の利用を許諾することができるもので、かつ、ライセンサー自身が著作物を利用してはならないとするものです。

 

(2)非完全独占的利用許諾

これは、ライセンサーが複数人に対して著作物の利用を許諾することができず、特定の一人に対してのみ著作物の利用を許諾することができるもので、ライセンサー自身が著作物を利用しても構わないとするものです。

 

(3)非独占的利用許諾

これは、ライセンサーが同時に複数人に対して著作物の利用を許諾することができるものです。

 

 


【ライセンシーによる差止請求及び損害賠償請求】

著作権を侵害する第三者に対してライセンシーが差止請求及び損害賠償請求を行うことができるか否かについては、次のようになります。

 

(1)独占的利用許諾

固有の差止請求

⇒不可

固有の損害賠償請求

⇒可能

差止請求の代位行使

⇒可能

 

 

(2)非独占的利用許諾

固有の差止請求

⇒不可

固有の損害賠償請求

⇒不可

差止請求の代位行使

⇒不可

 

 


【著作物の特定】

ライセンシーが利用できる著作物の内容が曖昧だと、後でライセンサーとライセンシーとの間で齟齬の原因になるため、対象となる著作物の写しを契約書に添付する等の方法により著作物の特定を明確に行う必要があります。

 

 


【利用許諾の範囲】

著作物の利用許諾の範囲が曖昧だと、「そこまでの利用については、許諾していない」等といった形で後でライセンサーとライセンシーとの間で齟齬の原因になるため、例えば、次のような形で利用許諾の範囲を明確にする必要があります。

 

・画像を複製し、ウェブサイト上にこれを掲載することを許諾する場合

(1)掲載するウェブサイトの名称

(2)ウェブサイトのURL

 

・画像を印刷物に複製し、これを譲渡することを許諾する場合

(1)印刷物の名称

(2)最大発行部数

(3)対象地域

 

写真を映像作品に複製し、これを頒布することを許諾する場合

(1)作品名

(2)媒体

(3)複製本数

(4)対象地域

 

 


【納入】

著作物を利用する場合、円滑に著作物を利用するためにライセンシーがライセンサーから著作物が記録されたデータ又は著作物が記載された紙媒体を納入してもらうことが多いため、著作物の納入方法を契約で定めておくことがあります。

 

具体的には、データ又は紙媒体の納入方法(データの場合、実務上ではデータの形式を規定することがあります。)、納入時期、利用後の返却の要否等を定めます。

 

 


【存続期間】

著作物利用許諾契約の存続期間については、次のいずれかの方法により規定することが一般的といえます。

 

(1)契約の有効期間としてではなく著作物の利用期間として定める方法

(2)通常の契約と同様に契約の有効期間として規定する方法

 

 


【利用料】

著作物の利用許諾の対価としてライセンシーがライセンサーへ利用料を支払う場合には、その金額、支払方法等を明確に定めることが重要となります。

 

なお、著作物利用許諾契約の場合、ライセンサーがライセンシーに対して無償で著作物を利用させる場合も考えられ、その点を口約束で済ませるとトラブルになる可能性があるため、無償の場合には、その旨を著作物利用許諾契約に規定した方がいいと考えられます。

 

 


【著作物利用の再許諾】

ライセンシーが第三者へ著作物の利用を再許諾する場合には、その条件を取り決める必要があります。ただし、その再許諾を認めるとライセンサーの管理が行き届かないおそれがあるため、再許諾を全面的に認めることは少ないといえます。

 

 


【表明保証】

著作物利用許諾契約の対象となる著作物が第三者の著作権、肖像権、プライバシー権等を侵害している場合、ライセンシーは、これらの権利者から差止請求、損害賠償請求等の責任追及を受ける可能性があるため、著作物利用許諾契約において、著作物が第三者の権利を侵害していないことをライセンサーが表明保証する旨の条項を定めることがあります。

 

なお、表明保証違反の効果としては、例えば、ライセンシーが第三者から権利侵害等の主張を受けたときは、ライセンサーが自らの責任と費用負担によりこれに対応することを義務付け、ライセンシーに解除権を発生させ、又はライセンサーに損害賠償責任を生じさせることが考えられます。

 

 


 【著作者人格権】

ライセンシーが著作物を利用している間にライセンサーがライセンシーに対して著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権及び公表権)を行使するとライセンシーの著作物の利用を妨げることになるため、著作物利用許諾契約においては、ライセンサーの著作者人格権に配慮しつつ、例えば、次のような形で著作者人格権の行使について一定の制限を行うことがあります。

 

1.ライセンシーは、著作物の大きさ、色調、濃淡、字体、位置等を改変することができることとし、ライセンサーは、ライセンシーに対し、翻案権、著作者人格権その他の権利を行使することができない。

2.上記にかかわらず、著作物の本質的部分を損なうことが明らかな改変を行うときは、ライセンシーは、事前にライセンサーの承諾を得なければならない。

3.ライセンシーは、本著作物を利用するに際してライセンサーの表示をすることを要しない。

 

 


【在庫品の取扱い】

著作物利用許諾契約の有効期間が満了したことにより同契約が終了した場合において、その終了後一定期間内に限り、ライセンシーは、利用料を支払うことを条件として、保有する著作物の複製物が含まれる在庫品を第三者に販売することができる旨の条項を著作物利用許諾契約に規定することがあります。

 

反対に事由の如何を問わず著作物利用許諾契約が終了したときは、著作物の複製物が含まれる在庫品をライセンシーが廃棄する旨の条項を著作物利用許諾契約に規定することがあります。