雑感_No.4_業務委託契約における受託者の労働者性の判断


【業務委託契約の問題点】

近年、語学講師、ライター、運転手、配達員、美容師等の職種においては、雇用契約ではなく業務委託契約が取り交わされることが多くなっています。

 

このように業務委託契約が増加する背景には、事業者側としては、社会保険料の支払いを免れることができ、業務を依頼したい場合に必要に応じて業務を依頼することができ、コスト削減ができる等のメリットがあるためとされます。

 

もっとも、業務委託契約として契約を取り交わしているものの、実態としては、雇用契約と判断され得るような事例があり、このような場合、受託者に「労働者性」があるものとして、業務委託契約ではなく雇用契約があるものと判断され、労働基準法、労働組合法等の労働関係法令の適用を受ける可能性が出てきます。

 

 

【労働者性の判断】

実務における労働者性の判断については、昭和60年に労働省労働基準法研究会から公表された(労働基準法の「労働者」の判断基準について)という基準に基づき、行われています。

 

この基準では、(1)指揮監督下において労働が行われていること、(2)報酬が指揮監督下における労働の対価として支払われていることの2点を満たすと「労働者性」があるものと判断されます。

 

もっとも、上記の2点のみの基準だと労働者性の判断に困ることが出てくるため、次の判断要素を考慮して判断されます。

 

上記(1)の判断要素

1.仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無

⇒仕事の依頼があった場合に受託者がこれを断ることができないときは、「労働者性」が肯定される方向に傾きます。

2.指揮監督の有無

⇒業務の性質上必要な範囲を超えて業務の進め方又は実施方法を指示すると、「労働者性」が肯定される方向に傾きます。

3.拘束性の有無

⇒業務の性質上必要な範囲を超えて業務の実施場所又は実施時間を指定すると、「労働者性」が肯定される方向に傾きます。

4.代替性の有無(補強的な判断要素)

⇒受託者が下請先に業務を再委託することができるときは、「労働者性」が否定される一要素となります。

 

上記(2)の判断要素

1.報酬の労務対償性の有無

⇒時間給、日給等によって報酬を定めているときは、「労働者性」が肯定される方向に傾きます。

2.事業者性の有無(補強的な判断要素)

⇒業務に必要な機械器具について、受託者が高額な費用を負担しているとき、又は受託者の報酬が同種の業務を行う労働者の報酬よりも高額なときは、「労働者性」が否定される一要素となります。

3.専属性の有無(補強的な判断要素)

⇒第三者から業務を受託することが制限されているとき、又は生活保障的要素の強い固定的な報酬が支払われているときは、「労働者性」が肯定される一要素となります。

 

その他の判断要素

1.採用、委託等の選考過程における違い(補強的な判断要素)

2.源泉徴収の有無(補強的な判断要素)

3.労働保険の適用の有無(補強的な判断要素)

4.服務規律の適用の有無(補強的な判断要素)

5.退職金制度又は福利厚生制度の適用の有無(補強的な判断要素)

6.使用者の認識(補強的な判断要素)

 

 

【業務委託契約書作成時の対応】

業務委託契約書を作成する場合には、原則として、上記の基準に全部適合する形で作成することが望ましいといえます。

 

もし、想定していた業務委託契約の内容が上記の基準に適合しないときは、業務委託の仕組みから作り直す必要が出てくる場合もあります。

 

もっとも、実務では、上記の基準に全部適合した形で業務委託を行うことが難しい場合もあり、その場合は、できるだけ多く、上記の基準に適合させつつ、「指揮監督の有無」等基本的な判断要素については、全部適合する形を目指していくことになります。

 

なお、現実の業務委託では、契約書、求人採用サイト等において、雇用契約を匂わせる文言(ex.出勤、勤務、労働時間、有給休暇等)が掲載されていることが結構存在し、雇用ではなく、業務委託と判断されかねないケースが見受けられます。