株式譲渡契約書の意義


【意義】

株式譲渡契約とは、対象会社の既存の株式を保有する売主が買主に対し、その株式を譲渡する契約のことを意味します。

 

 


【株式譲渡契約書の定め方】

株式譲渡契約書では、譲渡する株式の内容(ex.株式の種類、株式数等)を具体的に特定し、譲渡価格を定めます。 

 

また、譲渡日(=クロージング日)を定め、売主は、買主に対し、対象会社に関し、その日の時点で紛争が起きていないこと、計算書類が適正に作成されていること等の点を保証する旨の規定も定められます。

 

 


【株式譲渡の手続】

当事者間で株式譲渡を行う場合、下記の手続が必要になります。

 

A.株式が株券発行会社の場合

売主買主間の合意+株券の交付で成立。

 

B.株式が株券不発行会社の場合

売主買主間の合意で成立。

 

なお、譲渡対象の株式が譲渡制限株式である場合には、定款に別段の定めがあるときを除き、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議も必要になり、その譲渡承認請求について、株式譲渡前では、売主が、株式譲渡後では、買主が行うことができます。

 

 


【名義書換】

株式譲渡が成立したとしても、買主が対象会社に対して権利を行使するためには、株主名簿の書換えを行う必要があります。

 

この点、株券発行会社の場合には、買主が株券を対象会社に提示し、株券不発行会社の場合には、売主と買主が共同して対象会社に請求することになります。

 

 


【競業避止義務】

譲渡日以降、対象会社と競合する事業を一定期間にわたり売主が直接的に又は間接的に行ってはならない旨が株式譲渡契約に規定される場合があります。

 

これは、売主が対象会社のノウハウ等を把握しており、仮に競業を許すと買主が害されることになるためです。

 

 


【公表】

株式譲渡が行われた事実を対外的に公表することの可否、公表方法等の規定が株式譲渡契約に規定されることがあります。

 

基本的には、売主と買主が双方で合意した場合に限り、株式譲渡が行われた事実を公表できるとする場合が多いといえます。

 

 


【表明保証】

株式譲渡契約では、売主から買主へ、又は買主が売主へ、契約締結日及び譲渡日において次に掲げるような事項を表明保証し、これに違反がある場合、買主から売主へ、又は売主から買主へ損害補償請求をし、又は株式譲渡契約を解除することができるとすることが多いといえます。

 

ただし、長期間にわたり損害補償請求を行えるとなると表明保証した側に過度な負担を負わせることになる等のため、「譲渡日から〇年以内に限り」等の時的制限(半年から1年が多いといえます。)又は補償金額の上限が設けられることがあります。

 

また、想定していなかった違反に対応できるようにするため、「〇〇の知る限り」、「〇〇の知り得る限り」等の形で当事者の主観的要素から一定の留保を付す場合があります。

 

「売主の表明保証」

1.売主に関する事項

(1)株式譲渡契約を有効に締結し、履行する権限を有すること。

(2)株式譲渡契約において負担する義務が強制執行できるものであること。

(3)株式譲渡契約の締結及び履行に必要な許認可を取得していること。

(4)株式譲渡契約の締結又は履行について法令又は定款その他の内部規則に違反せず、売主が当事者となっている他の契約に違反しないこと。

(5)売主が反社会的勢力に該当しないこと。

(6)売主が有効に対象会社の株式を適法かつ有効に保有していること。

(7)売主に倒産事由がないこと。

 

2.対象会社に関する事項

(1)対象会社において財務内容が適正であること。

(2)対象会社において継続中の訴訟等がないこと。

(3)事業に必要な資産を所有し、これを適法に使用収益できること。

(4)保証債務を負担していないこと。

(5)対象会社において事業に必要な許認可を取得していること。

(6)未払賃金が存在しないこと。

(7)対象会社が契約当事者となっている保険契約が有効に存続していること。

(8)法令等に基づき支払うべき租税を滞納していないこと。

(9)対象会社に倒産事由がないこと。

 

「買主の表明保証」

(1)株式譲渡契約を有効に締結し、履行する権限を有すること。

(2)株式譲渡契約において負担する義務が強制執行できるものであること。

(3)株式譲渡契約の締結及び履行に必要な許認可を取得していること。

(4)株式譲渡契約の締結又は履行について法令又は定款その他の内部規則に違反せず、買主が当事者となっている他の契約に違反しないこと。

(5)買主が反社会的勢力に該当しないこと。

(6)買主が有効に対象会社の株式を有効に保有していること。

(7)買主に倒産事由がないこと。

 

 


【表明保証違反とならない場合】

次の場合には、たとえ株式譲渡契約において表明保証条項を規定しても、買主は、表明保証に違反した売主に対し、損害補償等を請求できない場合があるとされます。

 

(1)買主がわずかな注意を払えば、売主の表明保証違反を知り得た場合。

(2)契約締結、対価等の決定に影響を及ぼす事項に重大な相違又は誤りがない場合。

 

 


【誓約事項】

次のような形で株式譲渡契約締結日から譲渡日までの間及び譲渡日以降に売主及び買主がそれぞれ行うべき事項及び行うべきではない事項を取り決めます。

 

「売主の誓約事項」

譲渡日まで善良なる管理者の注意をもって対象会社を運営すること。

譲渡日までに対象会社の代表取締役及び取締役の辞任届を作成すること。

対象会社が同意のない支配権の移転等を解除事由とする契約を第三者と締結している場合に対象会社をしてその第三者から株式譲渡の承諾を得ること。

株式譲渡契約以降一定期間自ら又は第三者をして対象会社と競合し、又はその可能性のある事業を行わないこと。

 

「買主の誓約事項」

譲渡日以降対象会社の従業員の雇用を維持すること。

 

 


【前提条件】

株式譲渡契約では、次に掲げる条件を満たした場合に譲渡日に株式譲渡を実行する形になります。

 

(1)表明保証の全てが真実かつ正確であること

(2)譲渡日までに買主が履行し、又は遵守すべき義務を履行し、又は遵守していること。

(3)司法機関又は行政機関により株式譲渡の実行を禁止され、差し止められていないこと。

(4)株式譲渡契約に関連する全ての契約が有効に締結され、有効に存続していること。

(5)株式譲渡の実行に必要な書面を相互に交付していること。

(6)株式譲渡契約締結日から譲渡日までの間において対象会社の財務状態、経営成績、収益の見通し等に悪影響を及ぼし、又はこれらのおそれのある事由が発生していないこと。

 

 


【解除】

表明保証が重要な点において不実又は不正確であったとき、自らの帰責事由によらずに一定期間内に株式譲渡が実行されないとき等においては、譲渡日前までに限り、株式譲渡契約を解除できるとすることが多いといえます。

 

 


【顧問契約】

株式譲渡を実行した後も対象会社の業務の引継ぎの関係で売主が対象会社と一定の関係を持つ場合があるため、1年間を目安とした顧問契約を売主が対象会社との間で締結する場合があります。

 

 


【退職慰労金の支給】

買主は、対象会社をして、譲渡日までに対象会社の代表取締役及び取締役を辞任する売主に対して退職慰労金を支給する場合があり、その旨の文言を株式譲渡契約に規定することがあります。