【意義】
事業譲渡契約とは、売買、贈与等の取引行為により、ある事業を第三者に譲渡する契約のことを意味します。
【事業譲渡契約書の定め方】
事業譲渡契約では、譲渡する資産及び権利義務を具体的に特定した上で締結し、譲渡側及び譲受側のどちらに帰属するのかが分かる程度に特定します。
譲渡する資産及び権利義務を明らかにするため、事業譲渡契約書上に目録を別紙として添付することがあります。
なお、事業譲渡契約では、事業譲渡を構成する個々の資産及び権利義務を譲渡するには、資産の名義変更及び契約相手による個別の同意をそれぞれ得る必要があります。
【事業譲渡の手続】
株式会社間で事業譲渡を行う場合、下記の手続が必要になります。
A.株式会社が事業の全部を譲り渡す場合
⇒(譲渡会社で)取締役会の承認決議+株主総会の特別決議
(譲受会社で)取締役会の承認決議+株主総会の特別決議(対価として交付する財産の簿価が株式会社の純資産額に対する割合に対して1/5を超えない場合、株主総会の特別決議は、不要。)
B.株式会社が事業の重要な一部を譲り渡す場合(資産の簿価が株式会社の総資産額の1/5を超える場合)
⇒(譲渡会社で)取締役会の承認決議+株主総会の特別決議
(譲受会社で)取締役会の承認決議
C.株式会社が事業の一部を譲り渡す場合(資産の簿価が株式会社の総資産額の1/5を超えない場合)
⇒(譲渡会社で)不要
(譲受会社で)不要
【債権者を害する態様で行われる事業譲渡】
債権者を害することを知りながら、業績不振等を理由として事業譲渡を行うと「詐害行為」として取消の対象になったり、「詐害事業譲渡」として譲受人が承継した財産の価額を限度として、譲渡人の債権者から債務の履行を受けることがあるため、注意を要します。
【事業譲渡と債務の承継】
事業譲渡が行われた場合において、下記の事由に該当するときは、譲受人もその事業から生じた譲渡人の債務を弁済する責任を負います。
1.譲渡人の商号を引き続き使用する場合において、事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受人が譲渡人の債務を弁済する責任を負わない旨の登記をしていないとき。
2.譲渡人の商号を引き続き使用する場合において、事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲渡人及び譲受人から第三者に対し、譲渡人の債務を弁済する責任を負わない旨の通知をしていないとき。
3.譲渡人の商号を引き続き使用しない場合において、譲渡人の事業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたとき。
なお、上記の2において、譲渡人及び譲受人から第三者に対し、譲渡人の債務を弁済する責任を負わない旨の通知をしたときは、譲受人は、その事業から生じた譲渡人の債務を弁済する責任を負わないため、事業譲渡契約書上に「第三者への通知に関する協力義務」の条項が定められることがあります。
【事業譲渡契約における表明保証】
事業譲渡契約では、一方当事者が他方当事者に対し、特定時点における特定事項の事実関係若しくは法律関係の存在又は不存在を保証する旨の条項(=表明保証条項)が規定されることがあります。
そして、その違反の効果として、表明保証条項に違反した一方当事者は、他方当事者に対して損害賠償及び解除を請求できるとすることが多いといえます。
【事業譲渡と公正取引委員会への届出】
下記の要件に該当する事業譲渡を行う場合には、公正取引委員会への届出が必要になります。ただし、事業又は事業上の固定資産の譲受けをしようとする会社及び事業又は事業上の固定資産の譲渡をしようとする会社が同一の企業結合集団に属する場合には、この届出は不要となります。
1.国内売上高合計額が200億円を超える譲受会社が国内売上高が30億円を超える会社の事業の全部の譲受けをしようとするとき。
2.国内売上高合計額が200億円を超える譲受会社が他の会社の事業の重要部分の譲受けをしようとする場合であって、その譲受けの対象部分に係る国内売上高が30億円を超えるとき。
3.国内売上高合計額が200億円を超える譲受会社が他の会社の事業上の固定資産の全部又は重要部分の譲受けをしようとする場合であって、その譲受けの対象部分に係る国内売上高が30億円を超えるとき。
なお、上記の届出が必要になる場合には、事業譲渡契約書上にその届出が完了した時点をもって、事業譲渡契約の効力が生ずる旨の条項が定められることがあります。