基本合意書の意義


【意義】

基本合意書は、最終の株式譲渡契約を締結するまでの当事者間における認識事項を確認するための合意書をいい、デューデリジェンスをまだ行っていない段階で締結されます。

 

多くの基本合意書では、(1)当事者間において、所定の金額及びスケジュールに従い株式を譲り渡し、譲り受ける意向があること、(2)株式を譲り受ける予定の者が対象会社へデューデリジェンスを行うこと、(3)株式を譲り渡す予定の者が対象会社の株式を譲り受ける予定の者以外の第三者との間で、一定期間、株式譲渡に関する交渉を行ってはならないこと(=独占交渉義務)がそれぞれ定められます。

 

このほかにも、対象会社の役員等の処遇、株式を譲り渡す予定の者の善管注意義務、費用負担、公表、秘密保持義務、誠実交渉義務、法的拘束力の確認等の規定が定められることがあります。

  

 


【基本合意書を締結する場合の流れ】

基本合意書は、一般的に次の流れに基づき締結されます。

 

秘密保持契約書の締結⇒基本合意書の締結⇒デューデリジェンスの実施⇒株式譲渡契約書の締結

 

 


【独占交渉義務】

基本合意書においては、株式を譲り渡す予定の者について、第三者との間でM&A取引(対象会社株式の譲渡及び譲受、増資の引受け、合併、株式交換、会社分割、資本業務提携等の取引をいいます。)に関する交渉を行ってはならないとすることがあります(=独占交渉義務)。

 

なお、独占交渉義務が課される期間については、実務上、次のようなものがあります。

 

(1)基本合意の終了日

(2)最終の株式譲渡契約締結日

 

 


【基本合意書における独占交渉義務の問題点】

基本合意書において独占交渉義務を定めた場合、株式を譲り渡す予定の者へ第三者から有利な条件が提示されたのにもかかわらず、株式を譲り受ける予定の者としか株式譲渡の交渉ができないと株式を譲り渡す予定の者が株式会社であった場合、取締役が善管注意義務違反を問われるリスクがあります。

 

そこで、取締役が善管注意義務違反を問われるリスクがある場合には、株式を譲り受ける予定の者へ一定の違約金を支払った上で、その第三者と株式譲渡の交渉を行うことができる旨の条項が定められることがあります。

 

 


デューデリジェンス

基本合意書におけるデューデリジェンスに関する条項では、次の事項を定めることが多いといえます。

 

(1)デューデリジェンスを実施することができる期間

(2)デューデリジェンスの実施方法

 

 


【株式を譲り渡す予定の者の善管注意義務】

対象会社の価値を毀損することを防止する点から、株式を譲り受ける予定の者の同意がある場合を除き、株式を譲り渡す予定の者は、善管注意義務をもって、対象会社の業務執行及び財産管理運営を行うこととし、対象会社について、次に掲げる行為を行ってはならないとすることがあります。

 

(1)増減資又は新株予約権の発行

(2)新規の借入れ、投融資又は担保の設定

(3)重要な財産の購入又は売却

(4)従業員の賃金水準の大幅な変更

(5)日常業務に属さない行為

 

 


【費用負担】

基本合意書に定める事項を実施するのに要する費用については、それぞれ各当事者が負担する形が一般的です。

 

ただし、デューデリジェンスについては、全て株式を譲り受ける予定の者が負担する形にすることがあります。

 

 


【秘密保持義務】

株式を譲り受ける予定の者が対象会社の秘密情報を漏洩し、又は目的外に使用すると対象会社の運営に支障をきたすおそれがあります。

 

そこで株式を譲り受ける予定の者について秘密保持義務を課すことが一般的です。

 

ただし、すでに秘密保持契約を締結しているときは、基本合意書においては、その秘密保持契約に基づき対象会社の秘密情報を取り扱うことが規定されることがあります。

 

 


【誠実交渉義務】

基本合意書締結後、最終の株式譲渡契約締結に向けて各当事者が誠実に交渉する義務を負うことを規定することがあります。

 

 


【法的拘束力の確認】

基本合意書のどの条項が法的拘束力があるのかを明確にします。

 

独占交渉義務、デューデリジェンス、株式を譲り渡す予定の者の善管注意義務、費用負担、公表、秘密保持義務及び誠実交渉義務については、法的拘束力を認める形が多いといえます。

 

もし、法的拘束力を認めた事項に違反したときは、その違反した当事者は、相手方に対し、債務不履行に基づき損害賠償責任を負う場合があり、特に独占交渉義務又は誠実交渉義務の違反が問題となります。

 

なお、基本合意書は、デューデリジェンスをまだ行っていない段階で締結され、デューデリジェンスを行った結果、スケジュール等に変更が生じることがあるため、所定の金額及びスケジュールに従い株式を譲り渡すことについては、法的拘束力のない形で定められることが多いといえます。

 

 


【基本合意の有効期間】

基本合意の有効期間については、基本合意が解除され、又は最終の株式譲渡契約が締結された場合を除き、基本合意を締結した日から一定の日までとすることが多いといえます。