【業務委託契約書(準委任型)の意義】
業務委託契約書(準委任型)は、委託者が受託者に対して一定の業務を委託し、受託者がその業務を実施する場合に用いられる契約書でコンサルティング業務、システムの保守業務等で使用されたりします。
業務委託契約(準委任型)では、受託者は、委託された業務を実施すれば足り、業務委託契約(請負型)と異なり、仕事を完成させる義務を負わない形となりますが、業務の実施においては善管注意義務を負い、その義務に違反し、委託者に損害が生じれば、受託者は、委託者に対して債務不履行責任等に基づきその賠償責任を負うことがあります。
また、業務委託契約(準委任型)の場合、民法において準委任契約が「当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾すること」によって成立することが規定されている関係で、業務委託契約(請負型)とは異なり、民法上、無償という事態が想定されている契約類型となります。
【業務内容の明確化】
業務委託契約(準委任型)では、業務内容を明確に記載した方がよいとされています。その理由としては、次のものが挙げられます。
(1)相違の防止
⇒業務内容を明確に記載しないと、相手方から「頼んでいた話と違う」、「そこまでお願いしていたはず」、「業務範囲外の行為だから追加で報酬の支払いをお願いしたい」等と主張され、相手方との関係で、トラブルになる可能性があるからです。
(2)業務委託契約のうち準委任型と請負型の区別
⇒業務委託契約のうち準委任型になるのか、それとも請負型になるのかを区別する場合には、その業務内容を把握する必要があるためです。
(3)債務不履行の有無の判断
⇒業務内容が明確に規定されていないと受託者に債務不履行があったか否かを判断できなくなるおそれがあるためです。
【業務内容を具体的に規定する方法】
受託者が実施する業務内容を具体的に規定する場合には、次の項目を中心に規定するのが望ましいといえます。
(1)業務の態様
(2)業務の実施頻度
(3)業務の実施場所
【準委任型の種類】
業務委託契約(準委任型)には、次のものがあります。
(1)役務提供型
⇒委任事務の履行に対して報酬を支払うことを約した場合がこれに該当します。
⇒特約がなければ、委託者が受託者へ支払う報酬については、後払いが原則です。
(2)成果報酬型
⇒委任事務の履行により得られる成果(ex.レポート、調査報告書等)に対して報酬を支払うことを約した場合がこれに該当します。
⇒特約がなければ、委託者が受託者へ支払う報酬については、成果が引渡しを要するときは、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならないとされます。
【成果報酬型の業務委託契約(準委任型)と業務委託契約(請負型)の違い】
成果報酬型の業務委託契約(準委任型)は、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬が支払われるものであるため、仕事の完成に対して報酬が支払われる業務委託契約(請負型)と似ている部分があります。
もっとも、成果報酬型の業務委託契約(準委任型)では、受託者が成果を達成する義務までは負っていないものの、業務委託契約(請負型)では、受託者が仕事を完成する義務を負っている点に違いがあります。
【費用負担】
特約がなければ、受託者は、委託者に対して業務の実施に際して支出した費用を事前に求償できるとされます。
もし、委託者が受託者へ費用を前払いしないときは、受託者は、特約がない限り、業務の実施を拒絶することができます。
ただし、委託者が過大にその費用を負担するおそれがあるため、実務では、委託者が事前承認した費用のみ
受託者は、委託者に対して求償できるとすることが多いといえます。
【遅延損害金】
業務委託契約(準委任型)では、委託者が報酬、業務委託料等の対価の支払いを遅延した場合に備えて遅延損害金の条項が取り決められることがあります。
実務でよく採用される遅延損害金の利率は、年14.6パーセントとなり、これは、慣習として、日歩4銭(0.04円)×365日として計算されてきたことによります。
なお、当事者間において、遅延損害金の利率について何らの取り決めを行っていないのであれば、その利率は、新民法の施行当初(令和2年(2020年)4月1日施行)に遅延があった場合には、年3パーセントの割合となります。
【再委託の禁止】
業務委託契約(準委任型)は、受託者の業務遂行能力を信頼して締結されるという点から、特約がなければ、再委託は、禁止されます。再委託が禁止されることにより、予定外の者が業務遂行することは無いので、委託者の保護に繋がります。
もっとも、受託者としては、再委託を行わないと業務を実施できない場合、再委託をした方が効率的といった場合等もあり得ることから、業務委託契約(準委任型)において、委託者の事前承認を条件として再委託できる旨の条項を規定することがあります。
【中途解約】
業務委託契約(準委任型)は、信頼関係を基礎とする契約であるため、期間の定めがあるか否かを問わず、互いに中途解約できるとされます。
ただし、いきなり中途解約を行うとやむを得ない事由がある場合を除き、不利な時期に中途解約を行ったものとして、相手方に対して損害賠償責任を負うことがあります。
そこで中途解約を行う場合には、一定の予告期間を設けた上で行うこととし、その期間を業務委託契約書(準委任型)に規定することが重要となります。
なお、一定の予告期間を設けて中途解約を行ったときは、中途解約を行った当事者が相手方に対して損害賠償責任を負わない旨の規定を定めることがあります。
【終了事由】
委託者と受託者との間で特約がなければ、次のいずれかに該当したときは、業務委託契約(準委任型)が当事者間の信頼関係を基礎とする契約であることから、業務委託契約(準委任型)は、終了するものとして取り扱われます。
(1)委託者又は受託者が死亡したとき。
(2)委託者又は受託者が破産手続開始の決定を受けたとき。
(3)受託者が後見開始の審判を受けたとき(こちらは、上記の(1)及び(2)と異なり受託者のみが該当し、受託者が契約開始後に後見開始の審判を受けた場合を想定しているもので、契約時から成年被後見人を受託者とすることは可能です。)。
なお、業務委託契約(請負型)では、上記のような取扱いはありません。
【報告義務】
特約がない限り、業務委託契約(準委任型)の受託者には、次の報告義務が課されています。
(1)委託者の請求があるとき。
⇒受託者は、委託者に対し、いつでも処理状況を報告しなければなりません。
(2)業務が終了したとき。
⇒受託者は、委託者に対し、遅滞なく処理状況の経過及び結果を報告しなければなりません。
なお、上記の報告義務について、業務委託契約(準委任型)において特約を定めるときは、一例として、次のような形が採用されることがあります。
(1)月次報告
⇒毎月一定期日に受託者が委託者へ報告書を提出する形となります。
(2)最終報告
⇒業務委託契約(準委任型)の最終段階に受託者が委託者へ報告書を提出する形となります。
【委任事務の処理時に生じた受託者の損害と委託者の損害賠償責任】
受託者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委託者に対し、その賠償を請求することができるとされます。
この場合、委託者が思わぬ負担を強いられるリスクがあり、さらには、その損害賠償請求の対象となる損害の範囲がどこまでなのかが不明確なことから、業務委託契約(準委任型)において、委託者は、受託者に対し、損害賠償責任を負わないとすることがあります。
【報告書の著作権】
報告義務の履行として受託者から委託者へ報告書が提出される場合に、その報告書それ自体に著作権が生じることがあるため、業務委託契約(準委任型)においては、「著作権は、移転するのか?」、「著作権が移転するのなら、その移転時期はいつか?」等の項目を規定することがあります。
この点の具体的な取扱いについては、次のものがあります。
(1)受託者から委託者へ報告書の著作権を移転する方法
(2)受託者に報告書の著作権を帰属させたまま委託者へその利用許諾を行う方法
【損害賠償責任の制限】
受託者が業務委託契約(準委任型)に違反して委託者に損害を生じさせた場合、受託者は、委託者に対して損害賠償責任を負うことになるところ、時には、その額が巨額になり、受託者にとっては受け入れがたい事態が生じ得ます。
そこで、業務委託契約(準委任型)においては、次のように受託者が負担する損害賠償額をあらかじめ制限することがあります。ただし、損害賠償責任を負う当事者に故意又は重過失がある場合には、公序良俗違反等の観点から、このような制限は、適用除外とされています。
(1)損害賠償額を受託者が受領する対価とする方法
(2)損害賠償額をあらかじめ定めた具体的な上限額とする方法
(3)逸失利益等一定の損害を損害賠償の範囲から除外する方法
(4)損害賠償請求できる期間を制限する方法
【競業避止義務】
業務委託契約(準委任型)においては、委託者から受託者へノウハウ等の重要情報を伝えている場合があり、それを用いて受託者が競業行為を行うと委託者が害されるおそれがあるため、一定の期間に限定した上で受託者の競業避止義務が取り決められることがあります。
【受領物の引渡義務】
業務委託契約(準委任型)の受託者は、次のもの(=受取物)を業務委託契約(準委任型)が終了した時に委託者に引き渡さなければならないとされています。
(1)委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物
(2)収取した果実
ただし、特約により、業務委託契約(準委任型)の存続中に、前もって受託者が上記の受取物を委託者に引き渡さなければならないとすることも可能です。
【途中で役務提供型の業務委託契約(準委任型)が終了した場合の報酬の取扱い】
途中で役務提供型の業務委託契約(準委任型)が終了した場合の報酬の取扱いについては、次のとおりとなります。
(1)委託者の帰責事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき
⇒受託者が自己の債務を免れたことによって得た利益を委託者へ償還する必要があるものの、受託者は、委託者に対し、全額の報酬を請求することが可能です。
(2)委託者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき
⇒受託者は、委託者に対し、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することが可能です。
(3)役務提供型の業務委託契約(準委任型)が履行の中途で終了したとき
⇒受託者は、委託者に対し、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することが可能です。
【受託者の名で取得した権利の移転義務】
特約がない限り、業務委託契約(準委任型)の受託者は、自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならないとされています。
例えば、商品の買付を目的とした業務委託契約(準委任型)の場合には、受託者は、受託者名義で買い付けた商品について、委託者へその所有権を移転させる義務を負う形になります。
反対に商品の売却を目的とした業務委託契約(準委任型)の場合には、受託者は、受託者名義による商品の売却後に受託者が受領した代金について、それを受託者が受領済であれば、その代金を、受託者が未だその代金を受領していないのであれば、その代金債権をそれぞれ委託者へ移転させる義務を負う形になります。
【業務委託契約(準委任型)終了時の処理】
業務委託契約(準委任型)では、契約終了時の処理について、取り決められることが多いといえ、具体的には、次のものがあります。
(1)マニュアル、顧客情報、機器等貸与を受けていた重要情報等の返還
(2)委託者から許諾を受けて使用していた商標等の使用禁止
(3)委託者及び受託者間で生じた債権債務の清算
【チェンジ・オブ・コントロール条項】
業務委託契約(準委任型)においては、委託者の企業秘密その他の秘密情報が受託者へ開示される場合において、受託者の会社支配権が委託者の競合他社に変動したときは、委託者に影響が及ぶため、受託者の総議決権の2分の1を超えて会社支配権の変動があったときは、委託者の事前の承認を必要とし、受託者がこれを怠ったときは、委託者が業務委託契約(準委任型)を解除することができるとすることがあります(その旨の条項をチェンジ・オブ・コントロール条項といいます。)。
【業務委託契約(準委任型)と判断される要素】
上記を前提に業務委託契約(請負型型)ではなく、業務委託契約(準委任型)と判断される要素としては、次のものがあるとされています。
(1)契約書の表題が請負契約とはなっていないこと
(2)受託者が負担する債務の内容に仕事完成義務が含まれていないこと
(3)仕事を完成していなくても業務を実施していれば受託者が委託者へ報酬の支払いを請求できること